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人間と牛
第1章 問題
その画像に写っていたのは大きな工場だった。そして、建物の新築さからして、まだ真新しいものとみられた。

「ふふ、凄いだろう。我々の研究のことを話したら、業者たちが直ぐにOKしてくれてね、お陰で、こんな大きな工場が貰えたよ。しかも、ちゃんと中は清潔で搾乳機やローションだってある」
自信満々に言う山本。

「もう完璧じゃないですか!!」
立花は、あまりの嬉しさに声を張った。

「いや、しかし、まだ足りないものがあってね……」

「足りないもの……ですか?」

「嗚呼そうだ。……それが此奴だ」
山本が再びスイッチを押す。

「注射器……確か、これは搾乳用の人間に打たせるものでしたよね……?」
この青い注射器、見たことがある。確か名称はBB3型、現在うちの研究所で開発途中のものだ。

「うむ。この注射器は、妊娠していない女性でも搾乳が可能になるよう改良が進められたものだ。確認のため、もう一度言わせてもらうが、搾乳にはプロラクチンとオキシトシンが必要になる。オキシトシンは、性的興奮中に生まれることが多いので何とかなりそうだが、プロラクチンの場合、自然に増えることは、まずない。そのため、この注射器にプロラクチンを入れたいのだが、プロラクチンの成分を調べたところ、なかなか複雑で、これは我々が五年以上、苦戦してきたことだ」

そうだ、注射器にプロラクチンを入れること。ただ、それだけのことで五年以上もかけてきた、そのことを思い出すと、研究者は悲しく思えてくる。

「そんな顔をするな。我々が今まで、やってきた行為は無駄じゃなかった。今、プロラクチンの副作用が起こらないかどうかの最終確認をしているのだ。これが成功すれば…………いよいよ人乳(じんにゅう)の開始だ」
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