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はなびら
第1章 はなびら
雪子は恍惚とした表情で、焦点の合わない目をしている。口の端には唾液が光り、咆哮にも似た鳴き声を上げている。

「うぅぅうぅぅ・・あぅぅぅ・・」
さかりを迎えた猫のような声を漏らし、雪子は矢崎のものをぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

「ああっ・・・いくっ」
矢崎は槙野朱里の肌に咲く花びらをまぶたの裏に思い描き、最後のひと突きを繰り出すと同時に雪子の中に精を放出した。


朱里を思い出しながら雪子を抱いた翌日。
偶然なのか、朱里から電話がかかってきた。

職場にいた矢崎は慌てて廊下に出ると、早鐘を打つ胸をなだめ、電話を取った。

「矢崎さん、ひさしぶり。元気?」
「ああ、元気だよ。朱里ちゃんは」
「元気・・。ねえ矢崎さん、近いうちに会えないかな」
「どうしたの、なにかあった?」
「なんか急に矢崎さんのこと色々思い出して、顔が見たくなっちゃったの」

声の感じから、いたずらっぽく微笑する朱里の表情が浮かんだ。
声を聞く限りでは、頻繁に会っていたあの頃の、奔放で快活な朱里そのままだった。


社員食堂で後輩の西野に会った。

西野は真面目な矢崎とは正反対で要領が良く社交的な男で、矢崎に劣らぬ端麗な容姿の持ち主だが、こちらは涼やかな美形の矢崎とは違い、アイドルにもいそうな可愛らしい顔立ちをしている。

人懐こい性格も相まって、職場では一回りほど年の離れた女性社員たちからも可愛がられているほどで、じつは社の女性役員のひとりとも密かに関係を持っている。

矢崎がカツカレーのトレーを持って席に着くと、西野はわかめうどんの乗ったトレーを向かいの席に置いた。
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