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はなびら
第1章 はなびら

西野が目を見開いて矢崎の顔を覗き込む。本来矢崎は真面目な男で女遊びなどする柄ではない。西野の手引きでたった一度、朱里との火遊びを体験しただけだ。
「先輩、遊びって言うのは引きずっちゃまずいですよ。変な話、慣れてない人ほどドツボにはまるんです。せっかくキレイに切れたんだから、もう会うのはやめといたほうがいいですよ」
「わかってるよ」
矢崎は笑った。
矢崎は西野と社食で別れたあと、朱里と出会った日のことを想い出した。
───結婚する前に、最後にやんちゃしといたほうがいいですよ
雪子との結婚を二か月前に控えていた矢崎は、西野にそそうそのかされ、同僚が主催する合コンに付き合わされた。
槙野朱里は二十五歳。都内の食品メーカーで事務をする派遣社員だった。
カールした髪を後ろで緩くまとめ、体のラインを隠すふんわりとしたカシュクールブラウスを品よく着こなした朱里は、個性を主張する他の女性たちよりも控えめな印象だった。斜め向かいに座った彼女からの視線を感じた矢崎が朱里を見れば、恥ずかしそうに目を伏せてぽってりとした唇でほほ笑んだ。
飲み会が盛り上がって来た頃、トイレに立った矢崎は用を済ませてドアを出たところで、朱里に鉢合わせた。朱里は千鳥足で女性用個室に向かう途中だった。
「やーざきさん」
唄うように矢崎を呼ぶなり、全身で倒れ込んできた朱里を、矢崎は咄嗟に受け止めた。
矢崎の首に両腕を回し、朱里はアルコール度数の高い甘くて熱い吐息で、矢崎の耳元で囁いた。
「矢崎さん、このまま二人でここ、出ませんか」
「先輩、遊びって言うのは引きずっちゃまずいですよ。変な話、慣れてない人ほどドツボにはまるんです。せっかくキレイに切れたんだから、もう会うのはやめといたほうがいいですよ」
「わかってるよ」
矢崎は笑った。
矢崎は西野と社食で別れたあと、朱里と出会った日のことを想い出した。
───結婚する前に、最後にやんちゃしといたほうがいいですよ
雪子との結婚を二か月前に控えていた矢崎は、西野にそそうそのかされ、同僚が主催する合コンに付き合わされた。
槙野朱里は二十五歳。都内の食品メーカーで事務をする派遣社員だった。
カールした髪を後ろで緩くまとめ、体のラインを隠すふんわりとしたカシュクールブラウスを品よく着こなした朱里は、個性を主張する他の女性たちよりも控えめな印象だった。斜め向かいに座った彼女からの視線を感じた矢崎が朱里を見れば、恥ずかしそうに目を伏せてぽってりとした唇でほほ笑んだ。
飲み会が盛り上がって来た頃、トイレに立った矢崎は用を済ませてドアを出たところで、朱里に鉢合わせた。朱里は千鳥足で女性用個室に向かう途中だった。
「やーざきさん」
唄うように矢崎を呼ぶなり、全身で倒れ込んできた朱里を、矢崎は咄嗟に受け止めた。
矢崎の首に両腕を回し、朱里はアルコール度数の高い甘くて熱い吐息で、矢崎の耳元で囁いた。
「矢崎さん、このまま二人でここ、出ませんか」

