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はなびら
第1章 はなびら
朱里が体を押し付けてくる。体のラインを隠す膨らんだブラウス姿からは想像しなかった、むっちりと豊満な胸が矢崎に触れた。

矢崎は慌てて体を引き離し、席に戻ろうとして立ち止まる。二人で戻れば周囲に怪しまれる。ならばいっそこのまま店を出てしまった方が何とでも言い訳ができる。酔って具合が悪くなりそのまま店を出て帰宅したとでも言えば、朱里との接触を誰にも知られずに済む。

矢崎は店を出ると、運よくそこにタクシーが近づいてきた。矢崎が乗り込むと追いかけて来た朱里が素早くシートに体を滑り込ませ、矢崎を座席の奥に押し込んで言った。

「運転手さん、下井草まで」

朱里が自分の部屋に矢崎を誘い込むつもりなのだと悟った。大胆な子だ、と矢崎が圧倒される暇もなく、運転手の白い手袋がギアをドライブに入れたとたん朱里は矢崎の顔を引き寄せて貪るようにキスしてきた。

朱里は大胆にもカシュクールの前を開いて矢崎の手を中に導いた。弾力のある豊かな乳房に触れた。よどみないリードに圧倒され、先ほどまでちらついていた雪子のことも吹っ飛んでしまった。矢崎は途方もないくらいに烈しく勃起した。

俺はテーブルを挟んで彼女と見つめ合った瞬間から、こうなることを望んでいたのだ。矢崎は悟り、後部座席に朱里の体を押し倒した。

その日を境に矢崎は憑りつかれたように朱里の体を欲した。雪子の帰宅が遅くなる日を見計らっては朱里と体を重ねた。

そんな期間が一か月続き、矢崎は次第に現実に引き戻されて行った。結婚式まであと一か月と迫り、追い込みの準備に忙殺され始めたのだ。

式や披露宴に向けて具体的な細かな内容を雪子と話し合う必要があったし、式場からも頻繁に連絡が来るようになった。挙式後には新居への引っ越しも控えていた。その合間に入ってくる朱里からの連絡。時間的にも精神的にも余裕を失った矢崎は朱里と会うために割くエネルギーはもはやなかった。

矢崎の気持ちは完全に雪子との結婚生活に向かっていた。ふと夜、一人になって朱里の肌を思い出して自慰に及ぶ時をのぞいては。
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