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忘れたい彼なのに
第1章 忘れたい彼なのに
「…………」
 あまりの荒唐無稽な内容に絶句する。でも、そんなこと絶対無理!とは言えなかった。なぜならそういう立場に魅かれている自分を感じていたから。好きな男子の所有物となり使われ奉仕することで充足感を得ている自分が容易に想像できた。

「自分でもとても非常識なことを言っている自覚はあるよ。それに今すぐ梨杏にそうなって欲しいとも思わない。ハードルの低いことから徐々にステップを踏んでいけばいいと思ってる。今僕達がしてることだってそう、1年前は全然できなかったのに、繰り返すうちに以心伝心のプレイになっているだろう。そんな風にね」

 なにか言わなきゃ!焦るけれどなにをどう言えばいいのかわからない。
「えっと、恋人じゃなくなるのは嫌よ、夫になるかどうかはまだわからないからなんともいえないけど……」

 違うそこは本質じゃない。でも彼は真剣に回答してくれた。
「恋人や夫よりも遥かに硬く強い絆で結びつく関係だよ。主従関係を結ぶ誓約・契約書を作ってサインし、梨杏がぼくの『牝奴隷』となる式を挙げるんだ」
「……」
 予想の斜め上の返事がきて再び言葉に詰まる。何とか自分の理解の及ぶ話題にしようと試みる。

「えと、結婚はしないってこと?それから子供のこととかどう考えてるの?恋人や夫婦だったらいずれは結婚して子供を作りたいと考えるカップルが多いと思うけど、主従関係は違うの?」

 苦い顔をして彼は言う。
「親を見てきたからねぇ。主従関係なら子供を作らないとかはないと思う。でも僕もそのあたりは実感が湧かないからね、大人になれば欲しくなるのかな。そのときが来たら考えればいいと思ってる。ただ、子供に迷惑をかける親は最低だね、僕はそうはなりたくないな」
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