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混浴露天風呂・痴漢ワニに囲まれて
第1章 プロローグ
子どもたちが大学、高校、中学へ進学し、舅は亡くなり、姑は施設に入所し、夫は、定年再雇用で離島勤務。

家族8人が住んでいた家に茉莉子だけが残された。結婚して3年で舅の退職金と残金は夫が住宅ローンを組むことで建てたハウスメーカーの鉄骨の家。

23区内で100坪の土地に二世帯住宅。学生時代の友達や、結婚前に働いていた会社の同僚からは羨ましがられた立派な家。

「23区内で庭付き一戸建て」

に住んでいるというと成功者らしい。戸建てとマンション。どちらがいいのかどうか。茉莉子はマンションでも良かった。舅と夫は賃貸マンション暮らしが長かったからか、庭付き一戸に憧れがあったようだった。

今、縁側に座って庭を見る茉莉子。

手入れをするのは施設に入った姑と、茉莉子の担当だった。姑が施設に入ってからは茉莉子が一人で担当している。

四季折々の花が咲き、子供の成長と草木の成長が楽しみという人生も悪くないと茉莉子は思っている。

45歳。

更年期症状があって、婦人科に通っていたが、どうやら、閉経が近いらしい。幸い、仕事以外は気楽になっていた。

一人暮らし。自分の予定で動けた。

そんなある日、施設に姑を見舞うと、

「茉莉子さん。これ」

と、渡されたのは封筒。中身は10万円の現金。

「年金があってもね。使うことが少なくて」

舅の寡婦年金だが、後期高齢者保険料は年金から差し引かれるが、残った分は使うこともなく貯まる一方。

「健司も単身赴任だし、お庭のことも任せきりだから。少しだけど、これで温泉にでも行ってきて。そういえば、家族で行ったあの温泉宿、今もあるのかしら」

と、思い出話を始めて微笑む姑。

茉莉子も思い出した。10年ほど前、家族全員で行った温泉宿。60歳代の夫婦と、同年代のスタッフで切り盛りしている小さな温泉宿。

5部屋しかなく、家族で3部屋を利用した。大浴場に岩風呂の露天風呂が併設されていて、庭の景色を見ながら入れた。眼下には遠くの街並みと海が見えた。あのときは、茉莉子の家族のみの宿泊で貸切のような感じだった。
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