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助教 沙霧
第13章 視線
 その時だった。

「……瀬川先輩」
 
 戻ってきた佐藤が、扉の脇に立っていた。

「あ、あの。さっきのコメント、すごく身に染みました。……それと、ずっと気になっていたんですが」

 佐藤は躊躇いながらも、沙霧の右手に視線を落とした。

「先輩、首……どうかしたんですか? ずっと手でおさえてらっしゃるから」

 沙霧の全身が、一瞬で凍りついた。
 誰にも悟られてはならない。それが誉からの指示だった。

 しかし、目の前の純朴な後輩の視線が、自分が誉のために守り続けている「聖域」に土足で踏み込んできたとき、多紀理は自分の秘めた淫らな奥底が露見する恐怖と同時に、その状況に言い知れぬ快楽を覚えている自分に気づいていた。
 
「……別に。ただの、癖よ。気にしないで」
 
 いつも後輩に優しい沙霧には似つかわしくない、突き放すような冷たい声。佐藤がたじろぐ。

「……あ…すみません……変なこと言って…」

 慌ててとりつくろう佐藤。
 だが沙霧の手は、うなじを離れるどころか、佐藤に見せつけるようにさらに爪を深く皮膚に沈めた。まるで、誉と自分とをつなぐ唯一の具体的な「印」が消えてしまうのを恐れるかのように。
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