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『春のにほひ』
第1章 沈丁花の咲く頃…
 6

「う……」
 初めて口にしたバーボンウイスキーは…
 苦く、大人の味がした。

「ふ………かわいいのね…」
 そんな僕の所作をジイッと見つめていた千里さんが、優しい笑みを浮かべ、そう囁いてくる。

「初めてなんでしょう?」
 そして、続けて聞いてくる。

「あ、い、いや…」
 だが、なぜか…
 そう呟き、首を振る。

「あら、そうなの?」
「は、はい」
 今度は頷く。

 僕は、なぜか、急に…
 大人になりたくなったのかもしれない。
 
 それとも初めてのこのウイスキーという強いお酒と…
 この鼻腔の奥をくすぐり、心の奥まで蕩けさせてくる、沈丁花の濃く、むせるような蜜の甘さに…
 あっという間に酔ってしまったのかもしれない。

「ふ、ありがとう、かわいいわね…」
 そして、この千里さんには、そんな僕の大人という憧憬の背伸びの昂ぶりは…
 すっかり見抜かれてしまっていた。

「……………」
 
 沈丁花の匂い立つ甘さ…
 二月の寒い夜の冷気…
 初めての大人の味のお酒の強さ…
 そして、この千里さんの魅惑さに…
 僕は、瞬く間に、酔い痴れてしまったのだ。

「………………………………」

「……………………ぁ……ぅ、ぅ…………」
 
 気付くと…
 強い頭痛と悪寒が…
 そして、見覚えのない天井が目に入ってきた。


「あら…起きたの?」

「………ぁ……ぅぅ……」
 一気に頭痛と悪寒が襲ってくる。



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