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影を背負った愛~足りない愛を、君に
第32章 父の日の前夜 ~夢の余韻~ 二人交差編
健治さんは電話の向こうで、わずかに息を吐いた後、低く穏やかな声で言った。


「そうか……。実は俺も、1ヶ月くらい前に似たような夢を見たんだ。
俺も幸せになる夢をな……お前と一緒に、家族になって、笑ってる夢だった。
悪い夢じゃなくてよかった」


彩香は一瞬息を飲み、胸が熱くなった。


「……健治さんも?」

「ああ。目が覚めたときは少し戸惑ったが……
今こうしてお前と話せて、現実のほうが夢よりずっと甘いと思ってる」

彩香は少し勇気を出して、恥ずかしそうに続けた。

「……でも、ちょっと怖い夢でもあったの。
だから……束縛はしないでね?
離れてても、健治さんの心の中にいつも住んでいるから……」


電話の向こうで、健治さんの息がわずかに変わった。
保護欲と独占欲が、静かに、しかし確実に膨らむ気配がした。

「わかったよ。……束縛はしない。
ただ、守らないといけない。お前は俺の大切な女なんだからな」

彩香は耳まで熱くなり、スマホを両手でぎゅっと握った。

少し間を置いて、恥ずかしさで声を小さくしながら言った。


「それと……明日、貴くんに会うんでしょう?
もし何か聞かれたら……私の名前とか、詳しく伝えなくてもいいから……
『大事にしたいと思っている人ができた』って言ってくれたら……嬉しいな」


彩香は最後の方をほとんど蚊の鳴くような声で言った。
顔が熱くて、ベッドに顔を埋めたくなった。


健治さんは少し沈黙した後、低く満足げな声で答えた。


「……わかった。貴にはそう伝えておく。
お前を大事に想ってる女性がいる、とな。
……ただ、俺の中では、お前はもう完全に俺のものだぞ。
他の男に取られる気は一切ない」


その言葉に、彩香の胸が甘く締め付けられた。
怖さと嬉しさが混じり合い、
夢で感じた「重い幸せ」が現実でも確かに近づいている気がした。

「健治さん……私、明日も楽しみにしてます。おやすみなさい」

「ああ。おやすみ、彩香。夢の中で俺が守っていたように、現実でも守ってやるからな」

電話が切れた後、彩香はスマホを胸に当てて天井を見つめた。

頰に残る熱と、目尻に浮かんだ小さな涙。

夢の甘さと、現実の健治さんの重い愛情が、優しく彼女を包んでいた。

(……あの夢が、叶い始めているのかもしれない)
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