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万華のむつごと
第5章 二十年後の夏祭り
突然いなくなった健太のことを、透子はずっと待っていた。そうでなければ、結婚して東京の西に嫁いだ今もこの下町に固執し、祖母の跡を継いでこの土地に通いながら日本舞踊の師匠をすることもなかった。

健太の背中の摩利支天が、透子の瞳に張った涙の膜に揺れている。

変わり果てた健太の姿に、途方もない苦労が見えた気がして、透子の胸ははりさけそうになった。

「今、志保はどうしてるの」

健太のこれまでの歩みに、志保が寄り添っていたなら、そこに希望を見いだせる気がして、透子はすがるように志保の今をたずねた。

「彫師として何年か過ごして、去年、更生施設で死んだ。きらきらした万華鏡の世界から抜け出せない、って俺あての手紙に書き残してさ」

透子は動けなくなった。

健太の両目が、まるで洞窟のように暗い。

その目は健太の体内にある光をすべて吸い込んでしまうような、恐ろしいほどの威力を感じる暗さだった。

透子の思考と体が切り離され、健太の瞳の奥にある濃厚すぎる暗闇に吸い取られる気がした。まるで健太の両目の奥で口を開いた二つの深い谷底に、バラバラになった思考と体が別々に落下していくような心地がした。

透子が思わず健太の腕にしがみつく。


透子の手のひらの温度が健太の腕に染み入ると、突然、健太が泣き始めた。
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