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『帰り花の夜に』~義母の静謐なる背徳
第4章 義息~超えてはいけない境界線(3)
取り残されたのは、私と初孫の雫だけの静かな時間だった。私は人差し指の先で、彼女の柔らかな頬をそっと突ついてみる。閉じた瞼がかすかに震えたが、彼女はそのまま規則正しい寝息を立て続けた。私は昔から、乳飲み子の口の匂いが好きだった。鼻を近づけると、微かに甘いミルクの香りがした。
たまらない匂いだった。私は抗いがたい衝動に駆られ、その小さな唇にそっと自分の唇を重ねた。
「お義母さん、おはようございます」
くたびれたTシャツとショートパンツを身につけた亮介くんが、眠気を取り払うように目を擦りながらリビングに入ってきた。
「おはよう。今日は確か、仕事はお休みだったわね」
「ええ、そうなんです。朝早くから本当にすみません、雫の面倒を見てもらって。葉月はまだ寝てますか?」
「寝かせているのよ。私が寝ていなさいって言ったの。だから気にしないで」
彼は白い歯を見せて、人懐こく笑った。それからカーテンを少しだけめくって、外の光を確かめる。
「今日は気持ちよく晴れそうですね。何か予定はありますか?」
「冷蔵庫のなかがあまりにも寂しいから、午前中にでも買い出しに付き合ってほしいのだけれど……構わないかしら」
「いいですよ」と彼は言い、バスルームの方へ歩き出した。私はその無防備な背中に声をかけた。
「亮介くん、普段は朝ごはんをちゃんと食べてるの? 葉月からは、適当に自分で済ませているって聞いたけれど」
「一応食べてますよ。トーストを一枚焼くくらいですけどね。朝はどうにも苦手で、いつもそれで済ませちゃうんです」
「それなら、明日からは私が朝食を作るわね。朝はきちんと栄養をとったほうがいい。何か食べられないものはある?」
そうして、三人の大人とひとつの小さな生命による共同生活が始まった。葉月の暮らす街は機能的で、徒歩圏内には清潔なスーパーマーケットや古びた商店街が揃っており、食材や日用品の調達に不自由することはなかった。
葉月の毎日は昼と夜の境界線が曖昧なまま乱れがちだったが、私の手助けもあり、新米の母親としてなんとか手際よく立ち回っていた。亮介くんも終業のチャイムが鳴るとどこにも寄り道せず真っ直ぐ帰宅し、父親としての役割を誠実にこなした。オムツを取り替える手つきも、夕方の沐浴も、日を追うごとに滑らかになっていく。
この調子なら、すべてはうまく回っていきそうだった。
たまらない匂いだった。私は抗いがたい衝動に駆られ、その小さな唇にそっと自分の唇を重ねた。
「お義母さん、おはようございます」
くたびれたTシャツとショートパンツを身につけた亮介くんが、眠気を取り払うように目を擦りながらリビングに入ってきた。
「おはよう。今日は確か、仕事はお休みだったわね」
「ええ、そうなんです。朝早くから本当にすみません、雫の面倒を見てもらって。葉月はまだ寝てますか?」
「寝かせているのよ。私が寝ていなさいって言ったの。だから気にしないで」
彼は白い歯を見せて、人懐こく笑った。それからカーテンを少しだけめくって、外の光を確かめる。
「今日は気持ちよく晴れそうですね。何か予定はありますか?」
「冷蔵庫のなかがあまりにも寂しいから、午前中にでも買い出しに付き合ってほしいのだけれど……構わないかしら」
「いいですよ」と彼は言い、バスルームの方へ歩き出した。私はその無防備な背中に声をかけた。
「亮介くん、普段は朝ごはんをちゃんと食べてるの? 葉月からは、適当に自分で済ませているって聞いたけれど」
「一応食べてますよ。トーストを一枚焼くくらいですけどね。朝はどうにも苦手で、いつもそれで済ませちゃうんです」
「それなら、明日からは私が朝食を作るわね。朝はきちんと栄養をとったほうがいい。何か食べられないものはある?」
そうして、三人の大人とひとつの小さな生命による共同生活が始まった。葉月の暮らす街は機能的で、徒歩圏内には清潔なスーパーマーケットや古びた商店街が揃っており、食材や日用品の調達に不自由することはなかった。
葉月の毎日は昼と夜の境界線が曖昧なまま乱れがちだったが、私の手助けもあり、新米の母親としてなんとか手際よく立ち回っていた。亮介くんも終業のチャイムが鳴るとどこにも寄り道せず真っ直ぐ帰宅し、父親としての役割を誠実にこなした。オムツを取り替える手つきも、夕方の沐浴も、日を追うごとに滑らかになっていく。
この調子なら、すべてはうまく回っていきそうだった。

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