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『帰り花の夜に』~義母の静謐なる背徳
第6章 義息~超えてはいけない境界線(5)
新幹線の窓の外を、夏の終わりの風景が猛烈なスピードで飛び去っていた。私は座席の背もたれに深く体を沈め、流れていく光の帯をただぼんやりと眺めていた。規則正しくレールを刻む車輪のジョイント音だけが、耳の奥に微かな振動を残していく。

三ヶ月という時間は、カレンダーの上ではあっという間のようにも思えたし、同時に、どこか別の惑星で過ごした気の遠くなるような年月のようにも思えた。

膝の上のトートバッグから、一冊の文庫本を取り出す。駅のホームで亮介君から手渡された本だ。ページをめくると、指先に紙の少しざらついた感触が伝わり、中から丁寧に四つ折りにされた便箋が滑り落ちた。

整った几帳面な文字で並ぶ感謝の言葉を辿っていく。そしてインクの匂いとともに、文末に添えられた最後の一行が目に飛び込んできた。

「やれやれ、何てこと」

私は思わず小さく声を出して笑った。まったく、とんでもないことを考えるものだ。私は本をパタリと閉じ、その言葉の奇妙な余韻を、胸の奥の冷暗所へとそっとしまい込んだ。

新大阪駅の改札を抜けると、人混みの中に夫の姿があった。

「おかえり。ずいぶん長かったな、三ヶ月は」

少し掠れた、聞き慣れた夫の声だった。

「ただいま。少し痩せたんじゃない?」

私はごく自然に彼の腕に自分の腕を絡ませた。薄手のコットンシャツ越しに伝わってくる骨格の感触と、記憶通りの体温。長年馴染んできたその皮膚の手触りに触れていると、目の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

久しぶりに戻った我が家のガレージには、赤い愛車が以前と変わらない佇まいで収まっていた。天井の高いリビング、使い慣れた大きなベッド。深く息を吸い込むと、留守のあいだに堆積した微かな埃の匂いと、締め切られた部屋特有の冷気が鼻腔をくすぐった。キッチンのカウンタートップには、飛び散ったまま乾いたコーヒーの染みが点々と残されている。

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