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『帰り花の夜に』~義母の静謐なる背徳
第7章 義息~超えてはいけない境界線(6)
完璧な文章が存在しないように、完璧な絶望が存在しないように、完全に清潔な倫理というものもまた、この世界には存在しない。少なくとも私は――いや、私という人間は、自分の下腹部の奥深くで奇妙に重たい熱が渦を巻き始めたとき、世界がそういうあやふやな成り立ちをしているのだと知った。
私の娘の夫であり、戸籍の都合上「息子」と呼ばれることになっている青年の肉体を思い出すたび、身体の深い場所が、まるで遠い異国の夜鳴き鳥のようにかすかに疼いた。それは夏の午後に突然やってくるスコールのように暴力的で、同時に深夜のラジオから流れる古いビーチ・ボーイズのレコードのように非現実的だった。道徳なんてものは、いつだって安物のペーパーバックの表紙くらいにしか役に立たない。
季節が春のいちばん華やかなコートを脱ぎ捨てようとしていた頃、娘の葉月は二人目の女の子を産んだ。家の前の清滝川には、散った桜の花びらが幾層にも重なり、ひとつの無言の意思のように流れていた。淀みに沈んでいく花びらと、そのまま海へと運ばれていく花びら。そこには何の意味もなく、ただ四月が終わるという事実だけが正確に反復されていた。
彼はよくできた夫だった。スイス製の頑丈な腕時計のように几帳面に時間を刻み、娘の手を握り、夜が明けると自分の日常へ整然と帰っていった。
二ヶ月後、私は休暇を取って彼らの家へ向かうことになった。出発の前夜、夫はまるで翌朝の目覚まし時計を合わせるような気軽さで私を抱いた。
「美香とセックスしないと、次の日の目覚めが悪くなるんだ」
男というのは時として、信じられないほど単純な配線で世界を理解しようとする。私は曖昧に頷き、夫の背中に腕を回した。そこにあるのは穏やかな親愛の情だったが、同時に底のない井戸を覗き込んだときのような乾いた風が吹き抜けていた。
私の娘の夫であり、戸籍の都合上「息子」と呼ばれることになっている青年の肉体を思い出すたび、身体の深い場所が、まるで遠い異国の夜鳴き鳥のようにかすかに疼いた。それは夏の午後に突然やってくるスコールのように暴力的で、同時に深夜のラジオから流れる古いビーチ・ボーイズのレコードのように非現実的だった。道徳なんてものは、いつだって安物のペーパーバックの表紙くらいにしか役に立たない。
季節が春のいちばん華やかなコートを脱ぎ捨てようとしていた頃、娘の葉月は二人目の女の子を産んだ。家の前の清滝川には、散った桜の花びらが幾層にも重なり、ひとつの無言の意思のように流れていた。淀みに沈んでいく花びらと、そのまま海へと運ばれていく花びら。そこには何の意味もなく、ただ四月が終わるという事実だけが正確に反復されていた。
彼はよくできた夫だった。スイス製の頑丈な腕時計のように几帳面に時間を刻み、娘の手を握り、夜が明けると自分の日常へ整然と帰っていった。
二ヶ月後、私は休暇を取って彼らの家へ向かうことになった。出発の前夜、夫はまるで翌朝の目覚まし時計を合わせるような気軽さで私を抱いた。
「美香とセックスしないと、次の日の目覚めが悪くなるんだ」
男というのは時として、信じられないほど単純な配線で世界を理解しようとする。私は曖昧に頷き、夫の背中に腕を回した。そこにあるのは穏やかな親愛の情だったが、同時に底のない井戸を覗き込んだときのような乾いた風が吹き抜けていた。

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