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『帰り花の夜に』~義母の静謐なる背徳
第7章 義息~超えてはいけない境界線(6)
新幹線を降りると、彼が改札の外に立っていた。
皺ひとつないシャツを着て、微かにシトラス系の匂いがした。ただ、目の下に張り付いた薄い隈だけが、彼を現実の重力に引き戻していた。
「お義母さん、こっちです」
彼の運転するフォルクスワーゲンの助手席に乗り込む。ストッキングを滑らせて足を畳んだ瞬間、彼がルームミラーの位置をわずかに直すのが見えた。その不自然なまでの冷静さが、狭い空間の気圧を静かに狂わせていく。
「寝不足なんじゃない? 隈ができてるわ」
「ええ、少し」と彼は言った。
「子供が二人同時に眠る時間なんて、ほとんど存在しないんです。正直、少し参っています」
「今日からは私がいるわ。少しは眠れるようになるはずよ」
私の声は、古い井戸の底の水のように奇妙なほど澄んでいた。
私たちはすでに一度、戻ることのできない線を越えてしまっていた。書類と血の巡り合わせが生み出した、奇妙にねじれた引力。同じ屋根の下で過ごす日々が、平穏な音楽のまま終わるはずがないのだ。
「葉月とは、その……うまくいってるの?」
FMラジオから流れるビル・エヴァンスのピアノに紛れ込ませるように、私は尋ねた。
「ご無沙汰ですね」
彼は困ったように肩をすくめた。
「そんな余裕、どこにも転がっていませんから」
「そうよね。産後のホルモンなんて、誰にもコントロールできないものよ。世の中にはそういう夫婦がいくらでもいるわ」
「急にどうしたんですか?」
「何でもないわ。ただの世間話」
窓の外では、初夏の光が街並みを容赦なく白く焼き尽くそうとしていた。
そうして、奇妙な四人の生活が始まった。私たちが再び互いの境界線を失うまでに、それほど多くの言葉や時間を必要としなかったのは、地球が自転するのと同じくらい当たり前の帰結だった。
皺ひとつないシャツを着て、微かにシトラス系の匂いがした。ただ、目の下に張り付いた薄い隈だけが、彼を現実の重力に引き戻していた。
「お義母さん、こっちです」
彼の運転するフォルクスワーゲンの助手席に乗り込む。ストッキングを滑らせて足を畳んだ瞬間、彼がルームミラーの位置をわずかに直すのが見えた。その不自然なまでの冷静さが、狭い空間の気圧を静かに狂わせていく。
「寝不足なんじゃない? 隈ができてるわ」
「ええ、少し」と彼は言った。
「子供が二人同時に眠る時間なんて、ほとんど存在しないんです。正直、少し参っています」
「今日からは私がいるわ。少しは眠れるようになるはずよ」
私の声は、古い井戸の底の水のように奇妙なほど澄んでいた。
私たちはすでに一度、戻ることのできない線を越えてしまっていた。書類と血の巡り合わせが生み出した、奇妙にねじれた引力。同じ屋根の下で過ごす日々が、平穏な音楽のまま終わるはずがないのだ。
「葉月とは、その……うまくいってるの?」
FMラジオから流れるビル・エヴァンスのピアノに紛れ込ませるように、私は尋ねた。
「ご無沙汰ですね」
彼は困ったように肩をすくめた。
「そんな余裕、どこにも転がっていませんから」
「そうよね。産後のホルモンなんて、誰にもコントロールできないものよ。世の中にはそういう夫婦がいくらでもいるわ」
「急にどうしたんですか?」
「何でもないわ。ただの世間話」
窓の外では、初夏の光が街並みを容赦なく白く焼き尽くそうとしていた。
そうして、奇妙な四人の生活が始まった。私たちが再び互いの境界線を失うまでに、それほど多くの言葉や時間を必要としなかったのは、地球が自転するのと同じくらい当たり前の帰結だった。

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