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『帰り花の夜に』~義母の静謐なる背徳
第7章 義息~超えてはいけない境界線(6)
エアコンディショナーは室内の温度を完璧に26度に保っていた。それはまるで、熱帯魚を飼育するための巨大な水槽の水温のように厳密で、感情を交えない冷たさだった。

台所では、包丁の刃先が木のまな板を規則正しく叩いていた。トントン、トントン、という乾いた音が、夜の深い静寂のなかに一定のリズムを刻みつけていく。私はイカの胴体を細く切り分け、皿の縁にすだちの輪切りを添えた。ただそれだけのことだ。夜入りの準備を整えることと、これから起こるはずの決定的な破綻を先延ばしにすることは、ある意味ではとてもよく似ていた。

娘の葉月と二人の幼い子供たちが完全に眠りの底へ沈んでしまうのを待って、私たちはリビングルームのローテーブルを挟んで向かい合った。亮介くんが選んだ古いフランスのモノクロ映画が、ほとんど消音に近いボリュームで画面の上を滑っていく。無口な青い光と影のグラデーションが、彼の輪郭を等間隔で浮き上がらせては、また闇の中へと押し戻した。

テーブルの上には、氷の浮いたサントリーの角瓶と、私のための甘い梅酒の缶が置かれていた。グラスの表面に生まれた細かな水滴が、重力に従ってコースターへと染み込んでいく。私たちは世界の天候についての幾つかの短い言葉を交わしたが、意味のある会話など最初から必要とされていなかった。

画面の向こうで繰り広げられる架空の殺人事件のプロットは、開け放たれた窓から逃げていく煙草の煙のように、どこか遠い場所へと滑り落ちて消えていった。

映画が終わり、灰色のエンドロールが静かに画面を埋め尽くし始めた頃、私は梅酒の缶の冷たい縁を人差し指でゆっくりとなぞった。そして、何気ない身振りを装って、自分の左手を木製のテーブルの上に滑らせた。

彼の手は、迷うことなくその上に重なった。

男の手のひらというのは、ときに奇妙なほど雄弁に物事を語る。彼の指は私の薬指と小指のあいだに滑り込み、熱を帯びた骨の感触を伝えてきた。皮膚と皮膚が触れ合った瞬間、身体の奥深くで眠っていた何かが微かに軋むような音を立てた。それは古い図書館の奥に隠された頑丈な扉が、何年かぶりに開かれたときのような音だった。
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