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彼と私の10コの差
第1章 彼と私の10コの差
「勝手に異訳すんな。シフトの便宜のために決まってんだろ」

「えー!そんなこと言ってぇ、ホントは私のこと好きなんでしょぉ?」

「ぜってえ無理」

「なっ、私だって伊藤くんなんか願い下げだしぃ」

いつの間に来ていたのか、後ろから伊藤くんの声がする。
何してんの?
好きな子いじめちゃうタイプなの?
そんなこと言ったら、あー、田中さん怒って帰っちゃったじゃん。

「山本さん?」

「何?」

「こっち向いて下さい」

「やだ」

伊藤くんが私の前に立つ。
私は即座に下を向いた。

「顔上げて?」

「無理」

すると伊藤くんは私の前にしゃがみ、顔を覗き込んだ。
見上げた伊藤くんの驚いた顔。
私は今どんな顔をしているんだろう。

「なんて顔してるんすか?」

「……元からこんな顔だもん」

「そうじゃなくて。何でそんな泣きそうなのかってこと」

そんなの自分でも分かんない。
目の奥がツンとする。
伊藤くんがそんなこと言うからつられちゃったじゃん。

「まさかとは思うけど田中さんのこと誤解したの?」

してないし!
誤解じゃないし!
だって私伊藤くんのメアド知らないし!

「何にも言わないと俺んち連れて帰っちゃうよ?」

伊藤くんが私の手をとった。
手を繋いだまま無言で彼の後をついていく。



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