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白衣を脱いだら~熟れた蜜の囁き
第3章 出会い(3)
昭吾は窓の外を見た。信号が赤から青に変わる。

車は静かに動き出す。ケニー・Gのサックスは、相変わらず滑らかに、少しだけ寂しげに、車内を満たしていた。美香の声も、その音楽と同じように、どこか滑らかで、少しだけ距離を置いていた。

「あなたは、こういう音楽、好き?」

「特に好きとも嫌いとも思いません。でも……悪くないです」

「そうでしょ。そうだ…まだ聞いて無かったわ。君はどういう音楽が好きなの?」

「キングヌーとか、バックナンバーとか」

「知らない名前だけど、そうなんだ…へえ」

美香はそれだけ答えると、またハンドルに意識を戻した。昭吾はふと美香の横顔を見た。人妻でありながら、こうして比較的自由に、しかも自分のような若い男と時間を共有していることに、静かな疑問が湧いてきた。不思議だった。あまりにも自然に彼女はここにいる。

「美香さん」

「なに?」

「ご主人は……ずっと、そばにいらっしゃらないんですか」

少しだけ間を置いてから美香は答えた。声は、音楽の合間に溶け込むように静かだった。

「主人はね…JICAの医療支援でインドネシアに単身赴任しているの。現地の保健省や医療機関に入って、国の医療政策とか、医師の卒後研修プログラムの制度づくりを支援しているの」

「へえ……そうなんですね。ご主人が海外に赴任されて、もう長いんですか?」

「もう、一年ぐらいになるかしら」

一年。その数字が、車内の空気に小さな波紋を広げた。昭吾はケニー・Gのサックスがまた新しいフレーズを奏でるのを聞きながら、思わず口にした。

「じゃあ……あっちのほうは?」

美香はハンドルから片手を離し、ゆっくりと髪を耳にかけた。そして、黒目がちの瞳を少しだけこちらに向けて、艶っぽく微笑んだ。

「内緒よ」

その声は、音楽の余韻よりも甘く、しかしどこか冷ややかに、車内に溶けていった。ナイロン越しに感じる美香の腿の熱が、指先にじわりと伝わってくる。ケニー・Gのサックスは、相変わらず滑らかに、少しだけ人工的な美しさで、二人の沈黙を満たし続けていた。
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