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白衣を脱いだら~熟れた蜜の囁き
第5章 出会い(5)
「初めて不倫をしたのは、いつですか」
「それは内緒にしておく。言っても仕方のないことだから。私ね、若くして今の主人と結婚したの。その頃は不倫なんて、ご法度だった。ここ最近まで、男は主人しか知らなかった。でも、夫婦の生活は妥協の連続だった。そんな生活に嫌気がさして、男を求めるようになった矢先に、最初に私に火をつけてくれた人がいたの。その人のことは、今でもはっきりと覚えている」
美香の声には、懐かしさと、わずかな疼きが混じっていた。あの男の影が、今も彼女の身体のどこかに、静かに残っているのだろう。
******
(回想)
私(美香)が、初めて禁断の沼に足を踏み入れた夜のことを、静かに思い返すことがある。
同じ薬局で働いていた彼は、いつも穏やかな声で、薬の豆知識を私に教えてくれた。「へえ、そうなんだ」とメモを取りながら驚く私の顔を、彼はいつも優しい笑顔で見つめてくれた。
「メモに書くことじゃないですよ……でも真面目なんですね……そういうところ素敵です」
彼は私のことをいつも褒めてくれた。その言葉の中に、私まるで頭を撫でられたかのような温かみを感じた。
薬を監査するときに、お互いの腕が触れることもあった。その触感は一瞬だけ熱を帯びて、すぐに消えるが、私の心の中には灯のように暖かく残った。
私は気づいていた。彼の視線が、私の横顔に長く留まることを。彼の声が、他の誰に対するときよりも、わずかに柔らかくなることを。
けれど、二人とも口には出さなかった。既婚者であるという事実が、見えない壁のように二人のあいだに立ちはだかっていた。
「もう会えないかもしれない。この職場を辞めようと思っている」
その言葉が、ある日の夕方、休憩室の薄暗い光の中で彼の口からこぼれた。その瞬間、私の胸の奥で、何かがはじけた。
長いあいだ、押し殺してきたものが、一気に溢れ出した。私は、自分でも信じられないほどの衝動で、彼の腕を掴んだ。涙で声は震え、指先は冷たく、けれど心臓だけが、激しく打っていた。
「……辞めないで。私のために」
その一言が、すべてを変えた。
二人は、互いの家庭を壊さないという約束を、最初に交わした。愛している、という言葉は使わなかった。好き、というのも、あまりに軽すぎた。相手の人生を、自分の欲望で傷つけないこと。それが、唯一の、そして最も重い約束だった。
「それは内緒にしておく。言っても仕方のないことだから。私ね、若くして今の主人と結婚したの。その頃は不倫なんて、ご法度だった。ここ最近まで、男は主人しか知らなかった。でも、夫婦の生活は妥協の連続だった。そんな生活に嫌気がさして、男を求めるようになった矢先に、最初に私に火をつけてくれた人がいたの。その人のことは、今でもはっきりと覚えている」
美香の声には、懐かしさと、わずかな疼きが混じっていた。あの男の影が、今も彼女の身体のどこかに、静かに残っているのだろう。
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(回想)
私(美香)が、初めて禁断の沼に足を踏み入れた夜のことを、静かに思い返すことがある。
同じ薬局で働いていた彼は、いつも穏やかな声で、薬の豆知識を私に教えてくれた。「へえ、そうなんだ」とメモを取りながら驚く私の顔を、彼はいつも優しい笑顔で見つめてくれた。
「メモに書くことじゃないですよ……でも真面目なんですね……そういうところ素敵です」
彼は私のことをいつも褒めてくれた。その言葉の中に、私まるで頭を撫でられたかのような温かみを感じた。
薬を監査するときに、お互いの腕が触れることもあった。その触感は一瞬だけ熱を帯びて、すぐに消えるが、私の心の中には灯のように暖かく残った。
私は気づいていた。彼の視線が、私の横顔に長く留まることを。彼の声が、他の誰に対するときよりも、わずかに柔らかくなることを。
けれど、二人とも口には出さなかった。既婚者であるという事実が、見えない壁のように二人のあいだに立ちはだかっていた。
「もう会えないかもしれない。この職場を辞めようと思っている」
その言葉が、ある日の夕方、休憩室の薄暗い光の中で彼の口からこぼれた。その瞬間、私の胸の奥で、何かがはじけた。
長いあいだ、押し殺してきたものが、一気に溢れ出した。私は、自分でも信じられないほどの衝動で、彼の腕を掴んだ。涙で声は震え、指先は冷たく、けれど心臓だけが、激しく打っていた。
「……辞めないで。私のために」
その一言が、すべてを変えた。
二人は、互いの家庭を壊さないという約束を、最初に交わした。愛している、という言葉は使わなかった。好き、というのも、あまりに軽すぎた。相手の人生を、自分の欲望で傷つけないこと。それが、唯一の、そして最も重い約束だった。

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