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第6章 第六章　　飛沫

そこに王ちゃんの車が帰ってきた。

って事は、事務所には誰も居なかったんだ・・・。

私が王ちゃんの事務所に近寄っていくと事務所の横から短毛の中型の筋肉質な犬が出てきて

「うううぅぅぅ・・・」

と、威嚇するかのように唸りをあげてきた。


「どちら様？」

中から色黒の35歳前後のかなり茶髪な女性が出てきた。

「あ、私、社長に用事があって伺いました。」

「そうですか、少々お待ちになってね。」

彼女は東南系の美女の様な感じで南東北弁の様なイントネーションの話し方をしている。

王ちゃんの愛人？
ただの事務員さん？


そんな事を考えながら入口に立っていると・・・。

「あれ？今日って言ったかな？」

奥の部屋から王ちゃんが笑顔で出てきた。

なんかホッとする・・・。

「うん、なんか気になって・・・。」

まるでホステスみたいに、貴方に気があります、みたいな言い方をした。


「ふーん、まあいいや。来てしまったなら仕方ないさ。おーい、お茶出してくれ」

「はい、冷たいのと温かななのとどちらが良いかしら？」

「冷たいの」

事務員さんは冷たい麦茶を入れてくれてから

「社長、銀行と集金に行ってからラ・ネイルに行きたいのでそのまま帰ります。」

「うん、わかった、現金の扱いだけは気をつけてな。」

「はい、では。」

私にも一瞥してから事務員さんは事務所を出て行った。

「王ちゃん、ごめんね。どうしても顔を見たくて。」

「いいってば。気にしてないさ。」


その後しばらく世間話をしながら2時間位した頃、王ちゃんの携帯が鳴り、王ちゃんは着信の画面を見ると

「ちょっとごめん」

そう言って席を離れ事務所の外に出て話していた。

私に聞かれたくない話なのかな・・・。

王ちゃんが話していると犬が鳴いている。


王ちゃんって犬にも愛されてるのかな・・・。

ガラス越しの王ちゃんの後ろ姿が少しずつ離れていく。

犬の鳴き声がうるさいみたいだ。