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堕ち逝く空
第2章 始まりは静かに…
 電車がやってくるまでの数分を、音楽を聴きながら待っている。今日も冷たい風がトイレを出た瞬間に頬を撫で、綾香はコートの襟を立てて風を凌ごうとした。
 ホームに電車到着のメロディが鳴り響く。人の波が扉に向かい動き出す。綾香もその列に習って電車の中に入っていく。
 よく考えたら、この時間の人ごみに合わせて電車に乗る必要が無いことを乗ってから思い出す。それでも同じ毎日を過ごすことに慣れていて、ついつい習慣がここで出たのだと内心でいい訳をする。--誰も聞いていないのだが。

「明日からそうしたらいいっか…」

 どのみち卒業式を迎えたら、この電車に乗ることもないのだし。…軽い気持ちで区切ると、いつも見ていたドアについてる縦長の窓を見た。
 次に到着するまで時間が掛かるため、窓の外の景色は退屈しのぎに丁度良い。携帯ゲーム機や携帯電話などを利用するゲームで、この退屈を利用して過ごす人も多い中で綾香は酔いやすいために、画面を見ている気力がないのだ。ちょっとだけ羨ましいなぁっと思わなくもないが、それでも夢中になって乗り過ごす可能性を考えると出来ない性格ではあるが。………

「?」

 最初は気のせいかと思った。
 これだけ混んでいれば、鞄やましてや手が当たることもある。綾香自身もたまに手が女性のお尻に当たって、どうしようと思うこともある。だから当たっているなら、避ければいいじゃないかとばかりに、ほんの少し立ち位置をずらす。これでもう大丈夫だろうと思うそばで、またお尻のあたりに手の甲が当たる感触がした。

《ちょ、マジ?》

 今までもまるで無かったと言ったら嘘になる。女性専用車両もあるのだが、そこは香水や化粧品の匂いがキツイ場所でもあって、もっとも此処はさらに混在する匂いに眩暈が起こることもあるが、この学校の入学式に乗った女性専用車両の匂いに負けて、最悪な入学式を送った日から避けていた。
 しかしこの事態は困る。好き放題に触らせる趣味もない。言葉で意思表示するのは、やはり恥ずかしい。身体を逸らせて、魔手から逃れること早数回。それでもスカートの上からふわふわと揺れに合わせて、丁度お尻の真ん中にある線を辿られた。
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