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堕ち逝く空
第2章 始まりは静かに…
後ろを見たくても、ほんの少し動くだけでもきつい混雑の中で、必死に攻防戦を繰り広げるのは、綾香だけではなかった。
「…やぁ…」
小さな声に反射的に顔を向けると、傍のポールに身体を寄せている違う学校の制服を身に纏う少女が、カタカタと震えていた。
《ええええぇええええぇええええぇぇえ…!?》
此処はどこだ。公共の移動手段を使う場所ではなかったか。こんな非日常的な光景をまさか目撃する側であり、共有する側ではないハズである。しかしそうは言っても、チラッと見えた少女は、俯いて唇を噛んで耐えていた。
背後の痴漢は、それに感化されたただの変態だ。相手の腕から見えるスーツのズボンを目で追い、電車の揺れを利用してやろうと思う。よろけた振りで鳩尾に肘鉄と踵で足先を思い切り踏んでやった。
「あ、ごめんなさい!」
周囲の視線が痴漢に向けられると、さすがに不味いと思ったのか手は引っ込んだ。綾香は無事に危機を脱したのだが、便乗で向こう側にいる痴漢も撃退できたかと軽く視線を向けてみた。
その場から動いては居なかったが、少女の方も無事に魔手から逃れたようだ。ホッとして前を向く。窓の外の景色を眺めながら、さっさと電車を降りたいと思う綾香。まだ駅を跨がないと学校の最寄り駅には到着しない。この時間が酷く長く感じるのは、痴漢のせいだと思うことにした。
一方--。
綾香に救われたと思っていた少女は、さらさらとした長い黒髪が腰の下まであって、身長も低く。一見すると中学生に見えるぐらいの幼い風貌。それでも綾香と同じ年齢で、一足早い卒業式に向けて予行練習の為の登校であった。
少女の名前は冷泉香織。
ホッと吐息をついたのも束の間、執拗に触れていた掌が再びスカートを捲くる。人の波に押され、ポールに身を寄せることも出来なくなった。
顔を上げることも出来ずに俯く。背後に回ったポールを両手で持って、早くこの時間が終わることを願い固く瞳を閉ざす。背中に背負った鞄が、よりによってスペースを作っている。端に追い込まれ、ただ降りる駅が来るのを願い、立つことしか出来なかった。
「…やぁ…」
小さな声に反射的に顔を向けると、傍のポールに身体を寄せている違う学校の制服を身に纏う少女が、カタカタと震えていた。
《ええええぇええええぇええええぇぇえ…!?》
此処はどこだ。公共の移動手段を使う場所ではなかったか。こんな非日常的な光景をまさか目撃する側であり、共有する側ではないハズである。しかしそうは言っても、チラッと見えた少女は、俯いて唇を噛んで耐えていた。
背後の痴漢は、それに感化されたただの変態だ。相手の腕から見えるスーツのズボンを目で追い、電車の揺れを利用してやろうと思う。よろけた振りで鳩尾に肘鉄と踵で足先を思い切り踏んでやった。
「あ、ごめんなさい!」
周囲の視線が痴漢に向けられると、さすがに不味いと思ったのか手は引っ込んだ。綾香は無事に危機を脱したのだが、便乗で向こう側にいる痴漢も撃退できたかと軽く視線を向けてみた。
その場から動いては居なかったが、少女の方も無事に魔手から逃れたようだ。ホッとして前を向く。窓の外の景色を眺めながら、さっさと電車を降りたいと思う綾香。まだ駅を跨がないと学校の最寄り駅には到着しない。この時間が酷く長く感じるのは、痴漢のせいだと思うことにした。
一方--。
綾香に救われたと思っていた少女は、さらさらとした長い黒髪が腰の下まであって、身長も低く。一見すると中学生に見えるぐらいの幼い風貌。それでも綾香と同じ年齢で、一足早い卒業式に向けて予行練習の為の登校であった。
少女の名前は冷泉香織。
ホッと吐息をついたのも束の間、執拗に触れていた掌が再びスカートを捲くる。人の波に押され、ポールに身を寄せることも出来なくなった。
顔を上げることも出来ずに俯く。背後に回ったポールを両手で持って、早くこの時間が終わることを願い固く瞳を閉ざす。背中に背負った鞄が、よりによってスペースを作っている。端に追い込まれ、ただ降りる駅が来るのを願い、立つことしか出来なかった。