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堕ち逝く空
第2章 始まりは静かに…
戦慄が襲い男の顔を見る。妹の詩織がこうなると言った。その理由が分からずに、呆然と男を見上げた。
 長身で筋肉質な身体。カッコイイという容姿であるのは間違いない。

「卒業式まで毎日、この電車で」

 それだけ言うと、香織を拘束していた腕を解き。呆然としている姿を視界に納めることもなく、次の停車駅で男は降りていった。
 いつの間にか乱れていた衣服も元に戻されている。あまりの不気味さに全身の血が一気に沸点から落ちていく。香織はそのままへたへたとポールに手を添えて座り込んでしまう。
 けれどそんな香織に声を掛ける者もなく、発車の音を遠くで聞いていた。



 一方、暢気に登校した綾香は気持ち悪い出来事とあっさりと記憶から追い出すと、集まった友達らと楽しく過ごす。課題も大体は済んでいたので、本当に遊びに学校へ来ていると行っていいだろう。数人が教室の一角で取り込んでいるので、若干声を落とすものの今日は重大報告を持っていた綾香は輪の中心に鎮座したまま、なんでもないような声で「幼馴染が彼氏に昇格した」と簡潔に告げた。

「え!!!!!」
「声大きいよ…」
「いやだって、あの幼馴染くんでしょ?」
「他に居ませんが」

 笑いながら沢山のツッコミと、お祝いの言葉を貰う。それならと祝いに帰りでどっかに寄ろうという話になり、いつものごとくカラオケやボーリングなどの話が出てきた。
 それでも大半は、二人はどうだというのを話せるファーストフードでの時間が一番長くなることを思い、とりあえず帰りは駅とは言わず友達と別れる場所から迎えに来て欲しい気持ちで一杯だ。もっともそれを素直に言えるハズもないのだが。………
 痴漢に遭いそうになったことも、友達にも言えないでその日は駅に辿りついた。

「じゃ、また明日ね!」
「うん、また明日ー!」

 簡単に別れを済ませた綾香は、エスカレーターで上に上がっていく。
 駅までは友達と一緒なのだが、線が違う為に駅の入り口で分かれる。その為に暇つぶしも兼て携帯を取り出した。
 彰義にせめて駅まででいいから、お迎えに来て欲しいと思ったのもある。本当なら此処まで迎えに来て欲しい気持ちはあるのだが。それはいくらなんでも我儘だと思ったのだ。
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