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堕ち逝く空
第2章 始まりは静かに…
全身が動かせるようになった綾香の側に、男は一人も居なくなっていた。
真白の世界に飛んでいる間に、上も下も一見して元通りにされたようだ。しかし下着が気持ち悪いぐらいに濡れている。乳首をブラジャーに擦れて痛い。それは身体の奥がまだグラグラしていることでもーー夢ではない現実だと教えていた。
ポールにしがみつく。涙は流れないのが不思議なぐらいのショックは確かに精神的に受けている。しかし身体の奥、これまで知らなかった部分が急に目覚めたようでジンジンと疼いていた。

「助けて……彰義…」

乗る前の自分と見た目は変わらないのに、奥で何かが変わったのを綾香にはわかっていた。
迎えに来て貰おうと思ったのに、そう思っていたのに。……綾香の選択肢からそれは抹消するしか無くなった。
最寄り駅に着くとダッシュで家へと向かう。脇目もふらずまだ感覚のおかしい両足を、気持ち引きずったように走った。

「……」

家に着くとシャワー室に入る。濡れた下着と肌が気持ち悪い。知らなかった感覚と衝撃に打ちのめされていたのかも知れない。身体を隅々まで綺麗にしたのに、まだ汚れている気がする。どれだけ洗った所でこれ以上は何も変わらない。ーーそう思った瞬間、瞳から堪え切れない涙が堰を切って溢れ出した。
久しぶりに泣く。シャワーの音に隠れるように、身体を震わせて助けを求めて。どれだけの時間を風呂で過ごしたのか、まだ父は帰宅していなくてホッとした。

「もう寝よう…忘れよう、寝よう…うん、もう寝よう…」

鞄に入れっぱなしの携帯に気がついていたが、明日は学校は休む。もう卒業式の日まで電車に乗りたくない。綾香は恐怖に震える身体を隠すように頭から布団を被って眠りに落ちていくまで を闇に彷徨った。




















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