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執事はお嫌いですか?
第6章 主人と執事は翻弄し、進む
―――漂う湯気に、ほのかな甘酸っぱい香り。

大きな屋敷に見合うよう作られた、温泉旅館みたいな浴槽には、クロが気を利かせてくれたのか柚の入浴剤が混ぜられていた。




「斎、遅いよー」
「ごめん」

春はすでに慣れた手つきで頭に乗った泡を洗い流していた。
何度も幼い頃から泊まりに来ているため、ここのお風呂の使い方も慣れているし、普通の家庭レベルではないことに驚かない。

ちなみに東家は裕福でもなく、お金に困るほどでもなく、普通のサラリーマン家庭だ。
俺の父さんとなぜ面識があるのかは詳しくは知らないが、小学校入学くらいから傍に居る間柄なので細々とした疑問は流している。

「さっぱりしたー・・・」
「よかったな」

広々とした空間に、二人だけの会話が無駄に響く。

「――・・・このお風呂も久々で、懐かしい感じするなぁー。

初めてお泊まりに来て、ここ使ってって言われて入った時は、俺、旅館かなんかに来たっけ?ってなったの今でも覚えてる・・・。

斎がその時地味に爆笑してたのもー」
「俺も覚えてる。
あの時の春の顔は、まさに“唖然”だったからな」

幼い頃の春を思い出して、シャンプーのボトルを押しながら笑ってしまう。
俺の横では、その頃よりも数倍成長した体に大量の泡を付けた春が頬を膨らませた。

「だって、普通最初はびっくりするでしょ!
しかも、隣で同い年が平然とプールみたいな浴槽に浸かってんだし」
「・・・俺だって最初この家に初めて来た時はびっくりしたぞ。
父さんたちが会社立ち上げるまでは、普通の一般家庭生活だったし・・・」

父さんたちの会社は立ち上げてまだ数年しか経たない、新米会社だ。
会社として成り立つまでは、父さんは参考資料の整理や社員募集準備に大忙しで、母さんはそんな父さんを支えていた。

トップ会社として早数年――。
周りには何十年、何百年と業界に君臨してきた桁違いの有名会社が立ち並んでいるはず――。
それでも既にビジネス関係では頂点の座に立つ両親には、本当に頭が上がらない・・・。


・・・だけど、息子一人を男子高校生一人と一緒に日本に置いて飛び立ってしまったことはどうかと思うけど・・・。







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