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執事はお嫌いですか?
第4章 主人と執事の迷想
緊張、気恥ずかしさ。何ともいえないドキドキに声も途切れて出なかった。
先輩と出会ったときの状況とよく似ている。

拒むことさえ、できていない。

その姿を見て可笑しいのか、楓先輩はふふふ。と笑った。

「な、何で笑ってるんですか・・・」
「え?斎が可愛いなぁ・・・って」
「な、なにがですか・・・」

何か変なところを見せてしまっただろうか。

楓先輩が俺にこうした意地悪をしてくるのは、いまだにわからない。
先輩なりの距離の縮め方なのか。何なのか。

原因不明だ。

疑問の顔を浮かばせると、楓先輩はまた噴出して笑って言った。

「だってさ――・・・斎は隠し事は苦手っぽいし・・・

――必死に隠そうとしてるけど、バレバレ・・・だよ?」

ポツリとそう耳元に囁かれる。ゆっくりと。

「えっ・・・?」

ドクっと脈が速くなった。
耳に手を当てて、顔を赤くさせてしまう。

先輩はにっこりと微笑んで、大きな手で頭を撫でてきた。

「斎は素直でいーこ。

でも、そういうとこ狙ってやってないなら本物の悪い子。
タチ悪い、本物の悪い子だよ。」

「ど、どういう・・・」

口を開くと、一瞬大人びた顔が見え、噤んだ。

「じゃ、俺帰るね。
斎も、待たせてる人居るんじゃないの?」
「えッ、あ、え!せ、せんぱ――」
「じゃあね」

ばいばい。と手を振って、俺が呼びかけても流すように出て行ってしまった。

ぽつんと一人になった俺は、力が抜けてへろへろと椅子に座り込んだ。

「えっ・・と・・・」

時計を見てみると下校時刻を半分過ぎていた。
そんなにここにいたんだ・・・と頭の片隅で思った。

「もう俺の周りわからない奴ばっかりだぞ―・・・・」

「タチの悪い子」の声は頭にへばりつく。

ふいに窓を見るとカーテンが橙色に染まり揺れていた。
やけにグランドからの声が響いて聞こえた。


球を盛大に打つ音。
残る楽器のリズム音。
居残りの騒ぐ声。


耳に響く音、それでも楓先輩の声が消えることは無かった。
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