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執事はお嫌いですか?
第5章 主人と執事とお客さんと
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▼クロ視点


相変わらず、人だかりとざわめくショッピングモールの中。
俺は、春様と斎と共に再び手を繋ぎながら、次に1階の食品売り場へと向かっていた。

「美味しかった~・・・」

斎は、移動中、満足したようでお腹をさすった。
まだ、余韻に浸っているのか周りに花が見えそうなほど、ほこほことしている。

「斎様、満足されましたか?」

その様子を見て、一瞬千切れてしまいそうな理性をギリギリ抑えて話しかける。

大勢の人前で、さすがにキスなどしたら前みたいな正座でお説教だけでは許されないだろうし――・・・
下手したら、口きいてもらえずに、バイト終了――・・・

そんなことになってしまったら、確実に俺は立ち直れない。

それくらい、俺にとって斎は大事な、愛しい人だ・・・

「うん・・・
クロ、ありがとう・・・」
「いえ。主人が喜んでもらえるのが、執事の役目ですので――・・・
当然のことです」
「でも・・・ありがとう・・・」

ぎゅっと俺の手を握る力が強くなる。

色白くて、陶器みたいな細い手は俺の手を包み切れていなくて――・・・
それすら可愛いと感じてしまう。

「いいんですよ。私は、斎様が幸せなら」

俺は、何気なく普段思っていることを口にした。

斎が、泣いたり、悲しんでいる顔を見るより、その可愛らしい顔で笑ってくれたら、どんなに幸せで嬉しいか・・・
斎にはまだ伝わってはいないだろうけど、今はまだ・・・教えてあげるのは違う気がする。
ただ、俺が意気地なしなだけなのかもしれないけど・・・

そんな自分に内心、情けなく思っていると、

「クロ、執事やってくれて・・・あり・・・がと・・・」
「えっ・・・?」

ぽつん。と周りにかき消されそうなほど小さく、か細い声がかかった。

「い、斎様――」
「今日、凄く楽しくて春とクロで買い物できて・・・
そ、それに、毎日家も楽しくて・・・ご飯も、周りのこともやってくれて・・・

だ、だから、あ、ありがとう・・・って・・・

それだけだ・・・!」

斎は、春様の方を向いて「あっちのエスカレーター乗るぞ・・・!」と手をひいた。
春様は不思議そうに俺の顔を二度見すると、にやけ面で斎を追っていった。

当の言われた本人である俺は、手を引っ張られるがままで、放心状態。


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