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大蛇
第3章 睨まれた男
ルロイは町をひた走り、何とか落ち着こうと努めていた。

夜のひんやりした空気は、少しだけ彼をなだめてくれた。

 オルガ・ボーモン・・・。

何と危険な女だろう。

彼女はおれの信条を無視し、それを弄ぶことで快楽に浸ろうとした・・・・・。

空恐ろしい女だ。

ルロイはオルガを恐れたが、それと同時にたまらなく彼女の肉体に惹かれるのをひしひしと感じた。
「事はうまく運んだかい、オルガ」

会議から戻ってきたボーモン大佐は、妻にそう尋ねた。

プライドの高いオルガは、ルロイ・ソガごときに逃げられたことを決して白状しなかった。

「ええ。でも彼にはがっかりでしたわ。もうルロイ・ソガをここに呼ばないでくださいな」

思いの外機嫌を損ねている妻を、ボーモン大佐は意外に思った。

あれほど彼に執着していたのに、いざ手に落とすともう用済みか・・・意外と長続きしない玩具だったな。

大佐はそう考え、

「わかった。また骨のある男を見繕ってお前にやるとしよう」

と妻を慰めるように言った。

期待していますわ、とオルガは返事し、そのまま寝室に向かった。


オルガは寝室でルロイのことを考えていた。

大佐が性機能を失って以来、夫婦は別々の部屋で就寝するようになった。

時折オルガは執事のウィルや彼女の燕たちを部屋に引き入れていたが、その夜は独りで物思いに沈んでいた。

あまりに考えに没頭していたので、気が付くとオルガは自分が寝室にいないことに気が付いた。

彼女はどこかのアパルトマンの天井裏にいるらしかった。

換気孔の隙間から下にある部屋の中を覗くと、そこにはあのルロイ・ソガの寝姿があった。


いつの間にか、彼女は彼の住処にやってきていたのだ。

だが、彼女はルロイの家を知らなかった。

なぜ自分が知らないはずの彼のアパルトマンに来ることができたのだろう。

彼女は不思議に思い、無意識に手を顎の下に沿えようとした。

しかし、なぜかあるはずの手はなく、代わりに鱗だらけの尾が彼女の顔に触れたのだった。

オルガは驚き、声を上げそうになった。

私は蛇になってしまったようだ、これは夢だろうか?

オルガは夢の中だと確信を抱き、現実で果たせなかったことを実現させようと思った。

彼女は排気孔を口や尾で開け、無防備に眠るルロイに忍び寄った。
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