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大蛇
第6章 再び蜜を味わって
「奥様、また花束が玄関に・・・」

ボーモン家の執事・ウィルは、女主人に真紅の薔薇の花束を渡した。

オルガはそれを受け取り、花の間に埋もれたカードを取り出した。


     美しい人に
                あなたを想う騎士より


オルガはカードを目にすると花束を投げ捨て、「処分しておきなさい」とだけ言った。

彼女には、花束の贈り主がわかっていた。

…ルロイ・ソガ。

童貞を奪ってくれた年上の女にのぼせているだけの、尻の青い子どもに過ぎない。

もう私は彼の相手をするつもりもない。

釣った魚にまで餌をあげるほど、私はお人よしではないもの。

オルガは深くため息をついた。
                   *

ルロイは毎日オルガに花束を贈った。

情熱的な真紅の薔薇のみならず、清らかな百合や鈴蘭、可愛らしいデイジーなど、様々な花を選んだ。

ルロイにとって、そのどれもがオルガのイメージと重なるのだ。

贅沢で豊かな花のようでもあるし、可憐でいじらしい小さな花でもあったし、明るく天真爛漫な少女のような花にも、闇夜に咲く淫靡な花にもオルガは似ていた。

それだけに飽き足らず、ルロイは度々用もないのにボーモン邸の近くにやってきた。

遠くからでもいい。

オルガの姿を一目見たい。

彼は目を皿のようにし、屋敷の門越しにじっと二階の右から三番目の窓を見つめた。 

ルロイはいつでもオルガのことを考えていた。

ある時彼は勇気を振り絞り、彼女にまた会いたい旨を記した手紙を出した。

しかし、いつまでたっても返事が来なかった。

彼は項垂れ、一人悶々と味気のない日々を過ごした。
 
このように、ルロイはオルガに相手にされることなく満たされない想いを抱えていた。

だが、年の瀬の迫った十二月のある日、オルガが再びルロイの前に姿を現したのである!


                  *

その日、ルロイは劇場でオペラを鑑賞していた。

女性にデートの誘いを断られた哀れなジャンが、代わりにルロイを呼んだのだ。

オペラに興味のないルロイはすぐに断ろうとしたが、ふと劇場にオルガが姿を現すかもしれないと思い、ジャンの申し出に承諾したのだった。

上演中、ルロイは舞台ではなく客席ばかりに目をやっていた。

「おい、可愛い子でも探してんのか」
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