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大蛇
第6章 再び蜜を味わって
その娘の名は、アンヌ・トートリッシュといった。

栗色の縮れ髪と愛らしいハシバミ色の目を持ち、穏やかで物静かな少女だった。

ボーモン大佐と共に、ルロイはトートリッシュ家の食卓についていた。

アンヌの両親はボーモン大佐と旧知の間柄で、気心が知れていた。

彼らはにこやかにルロイとアンヌの話をしていた。

「ルロイ中尉さん、うちの娘にもったいないくらい素敵な方ね」

「私の秘蔵の部下でして・・・彼には安心して私の後ろを任せることができますよ」

ボーモン大佐は杯を片手に、楽しげにそう言った。

いつもの無表情な大佐からは想像もできない好人物ぶりに、ルロイは舌を巻いた。「ねえアンヌ、ルロイさんのことどう思う?」

今まで黙っていたアンヌは、突然母親から話を振られて驚いた。

彼女は何も考えていなかった。

まだ十六歳といううら若い彼女にとって、結婚にリアリティもなかったし、それに元々現実の男性に興味がなかった。

彼女はふわふわと美しい夢想の世界で生きていたのだ。

「お父様とお母様がお気に召したのなら、素敵な方だと思うわ」

アンヌは慌ててそう言った。

彼女の両親は顔を見合わせて笑った。

「この子ったら、まったく」

「いやいや、ご両親想いの素敵な娘さんだ」

ボーモン大佐の言葉に、アンヌの両親は笑顔を浮かべた。

「ルロイ君もそう思わんかね」

柔らかさの裏に棘のある大佐の言葉に、ルロイは「そうですね」と同意するしかなかった。

彼にとってアンヌは幼い子供に過ぎず、オルガのような目くるめくエロスを感じることはなかった。

親の言いなりになる退屈な娘に、ルロイは魅力を感じなかった。

確かにアンヌは美少女だったが、その美しさに彼は心を動かされなかった。

アンヌを見れば見る程、ルロイはオルガの非凡な妖艶さが恋しくなる。
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