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大蛇
第7章 二つの夜
                    *

タイムが深い夜に覆われている頃、彼らの故国にようやく夕闇が迫りだした。

オルガは夫と共に、サロンでお茶を飲んでいた。

ボーモン大佐は珍しく、休日を家で過ごしていた。

「やはり家で飲む茶はうまいな。たまにはこうやってお前と夫婦らしく向き合うのも良いものだな」

「そうですね」

「今頃、ルロイ・ソガ君は新婚の奥方とタイムに居ることだろうな」

夫の言葉に、オルガは図らずも胸を突かれた。

ルロイ・ソガが結婚していた?

彼女は冷静になろうとした。

彼を捨てたのは自分自身に他ならないではないか。

二度と自分に近づくことを許さなかったのは、オルガ自身。

だから、もうあの男のことは自分には関係ない。

それなのに、オルガはルロイが他の女のものになってしまったことに、紛れもなく嫉妬していた。

胸の中の炎が、ちりっと彼女を焼いた。

彼女は自分自身の我儘な心に驚いていた。

今や手に入らないものとなってしまったルロイは、オルガの中で再び価値が高まっていたのだ。
それに、と彼女は考える。

それに、ルロイのあの溢れんばかりの情熱が、自分以外の女性に注がれることが悔しくてならなかった。

オルガはルロイの愛撫を思い出し、体の奥がきゅっと震えるのを感じた。

そんな妻の様子を、ボーモン大佐は極めて落ち着いて見守っていた。

彼女のことだ、他人のものとなったルロイを、再び欲しているに違いない。

しかしあの男は危険すぎる。

奴を忘れさせるために、今夜お前に上等な贈り物をやるとしよう。

大佐はほくそ笑み、そしてカップに残る紅茶をうまそうに啜った。
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