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大蛇
第7章 二つの夜
翌日、ルロイは故国に帰ることをアンヌに告げた。

「さっき電話があって、急ぎの仕事が入ってしまった。今日帰らねばならないんだ」

もちろんこれはオルガに早く会いたいがための嘘であった。

今日は木曜日、今船で帰れば、来週の木曜日までに間に合うはずだ。

「そう、残念ね。でも私はまだ知人に会っていないから、ルロイさんは先に帰っていてください。両親の昔馴染みの方が、こちらに住んでいるの」

アンヌの言葉は、ルロイにとって意外なものであった。

しかし、願ったり叶ったりの申し出である。

アンヌはホテルのロビーでルナールと電話で話し、少しばかり滞在させてもらえることになった。

ルロイはアンヌをルナールの家の前まで送り届け、その足で港まで向かった。

「じゃ、元気で」

「はい、道中お気をつけて」

二人はどこか他人行儀に別れた。

図らずもアンヌを犯してしまったことに、ルロイは罪悪感があった。

アンヌもまた、どういう顔をしていればいいのかわからず、戸惑っていた。


アンヌはルロイを見送ると、気分を一新するため、深呼吸してルナール家の門をくぐった。

ルナールの屋敷は西洋風の様式だったが、庭で揺れている椰子の木や獣の石像などは当地風であった。

「ごめんくださーい」

アンヌは開け放たれたテラスに向かい、そう叫んだ。

しばらく間があったあと、小間使いの女性が姿を現した。

褐色の肌が眩しいタイム人の女性だった。

「お待ちしておりました、アンヌ・ソガ様ですね」

小間使いはアンヌをサロンに案内した。

家の窓という窓はすべて開け放たれており、部屋の中は爽やかなそよ風で満ちている。

「いらっしゃい」

マリー・ルナールが長椅子から上体を起こし、アンヌに微笑みかけた。

その懐かしい面差しに、アンヌの心の氷は溶けてゆく。

「お久しぶりです」

アンヌは弾けるような笑顔でそう言った。

「大人になったわね。とても綺麗になったわ」

ルナールの言葉に、アンヌは頬を染めた。

「結婚おめでとう。旦那様はどこに隠していらっしゃるの?」

「ありがとうございます。夫は、仕事が入ってしまったので先に帰りました。私がそうしてもルナールさんに会いたいと我儘言って、一人で残ることにしたんです」
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