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大蛇
第3章 睨まれた男
ルロイはサロンに通されると、執事の言葉が間違いではなかったことに気が付いた。

そこには夫人ただ独りしかいなかったのだ。

「あの、大佐は・・・」

ルロイは執事に尋ねると、

「旦那様は急用のためお留守です」

と短く答えた。

「ごめんなさいね、主人は急な会議で今夜は帰りが遅れるそうですの」

オルガはまっすぐにルロイの眼を見て言う。

「主人を待っていてもいつになるか分かりませんから、私たちだけで始めていましょう」

夫人は肘掛椅子から立ち上がり、ふんわりとルロイの手に触れた。

彼はオルガの砂糖菓子のような繊細な手にどきりとする。・・・・・これが女というものか・・・。

「さあ、食堂へ行きましょう」

オルガはルロイを促し、食卓まで案内した。

夫人はルロイから一メートル程離れた席に腰を下した。

広い食堂に二人きりだったので、何だか気まずさと気恥ずかしさを感じた。

これほど近くで女性と相対したことがなかったのだ。

オルガは、女性に不慣れなルロイのおどおどした様子を楽しんでいた。

彼の動揺振りは、彼女にとって非常に新鮮だった。

「ソガさんは、前の戦争で随分活躍なさったそうね」

 オルガは微笑みを浮かべてルロイの顔を覗き込んだ。

ルロイは思わずスープを掬うスプーンを落としそうになったが、努めて冷静に振る舞った。

「いや、大佐に比べれば大したことはありませんよ。大怪我をしても勇敢さと男らしさを失わない大佐は、私たちの誇りです」

オルガはルロイの純朴な青年らしさを好もしく思った。

何と可愛らしい男だろう。

「そうね、確かに主人は素晴らしい男性ですわ。その主人に見出されたあなたも、十分素敵だと思うわ」
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