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五十嵐さくらの憂鬱。
第16章 …16
動物たちの姿に全く乗り気になれないまま
園内を翔平のどでかい歩幅に合わせるようにして
さくらは若干小走り気味になりながらついて行った。

翔平の方は楽しそうにしていて
疲れただの、帰りたいだの
それを言う勇気がしぼむような笑顔だった。

動物ふれあいコーナーを通り過ぎようとする翔平に
待って!
と大きな声で止めて
モルモットを抱っこしながら椅子に座った時
やっとさくらは一息つくことができた。

樹といるときとは違う、息がつまるような感覚。
翔平が悪いわけではない。
さくらが、意気地がないだけだというのが
十分理解できていた。

モルモットの心臓は早く
毛並みは思っている以上に硬い。
小刻みに動く鼻面と
口からほんのちょっと覗く前歯が可愛くて
思わずふふ、と笑ってしまった。

「あ、やっと笑った」

それを見ていた翔平が
同じくモルモットを抱っこしながら
さくらの隣に座った。

「え、私、笑ってなかった?」

それに翔平は気まずそうに笑った。
そんな変な顔してたかな、とさくらは反省した。

「さくらが悪いんじゃないんだよ。
なんかさ、改めてこうやっているとさ
どうもいつも通りに行かなくて…
焦っちゃってさ」

翔平はモルモットの頭を
爪先でぽりぽりと撫でた。
モルモットが気持ちよさそうにする。
さくらも、のんびりした気分に
やっとなった。

「…翔平、ごめんね。
なんだか、私もずっと気まずくって」

モルモットから手を離し
毛の長いまるでモップのようなウサギを触りながら
さくらはポツリとつぶやいた。

「いつもと同じでいたいのに…
なんか、できなくって…」

「それは、俺も一緒だよ」

さくらはそこで初めて
泣きそうになった。

隠すように、懸命にウサギの頭を撫でる。
不意に、急に、
樹に会いたくなった。
心の底から、あの優しく自分を抱きしめてくれる人に会いたくなって
心臓が締めつけられるような気分になった。

「…くら、さくら!」

翔平の馬鹿でかい声に
驚いて顔を上げた時には
目からぽたっと
涙がこぼれた。

翔平が隣に座って、
さくらの手を握りしめた。
いつもの翔平からは想像もつかない
優しく壊れ物を扱うような力だった。

「…さくら、帰ろう。
お前の気持ち、よく分かった。
つき合わせてごめんな」
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