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五十嵐さくらの憂鬱。
第17章 …17
「よくもノコノコと学校に来れるわね」

尊敬するわ、その図太い神経。
そんなことをケラケラと笑いながら、
真綾は派手な笑みを見せつける。
まるで勝ち誇ったかのようなその表情に
さくらはめまいがした。

「ま、これだけで済むと思わないでよね」

そう言い放って立ち去る真綾が
見えなくなるまでぼうっと見つめてから
さくらは事切れたかのように
その場に突っ伏して、失っていた睡眠に引き込まれた。

小春が慌てて駆け寄ってきたのは
真綾の宣戦布告から実に1週間が経ってからだった。

「ちょっとさくら、これ!」

小春が手にした携帯の画面には
掲示板の下の方に貼られた
さくらの誹謗中傷のようなメモ書きが写っていた。

「すぐ剥いだんだけど、まだ他にもあるかも…」

小春は今にも泣きそうな顔をした。

「こんなことされて、悔しくないの、さくら‼︎」
「でも…どうにもできないし」

浮気は事実だ。
さくらは打つ手がないことを
もうすでに知り尽くしていた。

「犯人は、あの真綾って子なんでしょう?」

おそらくそうだが、確信も証拠もない。
下手に犯人扱いして騒げば
余計に逆手に取られて
状況が悪化することは間違いなしだった。

「何もせずにいるの?
こんな一方的に罵られて…さくら、ちゃんと弁解しないと
誤解も噂も、広がる一方なんだよ?」

わかってる。
そう口の中でつぶやいたが
それはざわめきによってかき消された。

「何なのよ、何であんな楽しそうにできるの?」

小春の複雑な表情につられて
さくらも視線の先を追うと
そこには樹と夏月、真綾と佳代がいた。
騒いでいるのは真綾と佳代だけだが
華やかな雰囲気は
空気を伝って、食堂の隅のこちらまで届いた。

「はるちゃん、心配してくれてありがとう。
でも、大丈夫だから。
人の噂も45日っていうし、その内収まるって」
「また、そんなのんきなことを…」

小春の心配をよそに
さくらはまた課題に目を落とした。
向こう側で騒いでいる集団が
嫌に耳についたのだが
イヤホンを装着すると、さくらは自分の課題に集中した。
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