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五十嵐さくらの憂鬱。
第17章 …17
さくらの血の気が引く。
その時は、運良く樹に助けてもらったが
今は、その頼りの綱さえない。

「あ、俺この子覚えてる!」

1人がそう騒ぎ始めて
いつかカラオケに連れ込もうとして
失敗した話を持ちかけると
みんながあの時のか、と納得してうなづく。

「あんたたち知ってるの?」

真綾がこの季節にそぐわないミニスカの裾を直しながら
いかにもつまらなそうに呟いた。

「泣いてたから遊んであげようとしたら
ちょうどいいところで逃げられたんだよ。
俺、あの時ハイヒールで踏みつけられたんだよ」
「だっさ。
あ、でも怪我したの?
慰謝料請求すれば?」

その真綾の言葉には、残酷さが含まれている。
その赤い唇がつり上がった。

「払えないなら、体で払って貰えばいいじゃない?」

それに男たちが色めき立つ。

「ちょ、なんの話ですか。放してください」

さくらの頭の中の警鐘が鳴る。
このままではまずい。
何か、よからぬことが起こるような気がした。

「そーだよ、俺すごい怪我で、あのあと痛くて動けなかったんだ」
「あ、そういえばお前寝込んでたな」

全くの嘘であろうことを、どんどんと言い始める。
さくらの奥歯が寒さと、恐怖でカチカチ鳴った。

「俺、お金いらないから身体でお支払いしてもらいたいなぁ。
ちょうど、別れたばっかで
すんごい溜まってるんだよね」
「あ、俺も俺も。あの時すごい心を傷つけられたし、
やっぱ落とし前つけてもらわないとだよな」

やめて、という声は恐怖で喉から出てこない。
覗き込んでくる男たちの目は
ギラギラとしていて
真綾に至ってはザマアミロ、と鼻を鳴らした。

「じゃ、決まり!
足がつくとあれだからカラオケでいっか」
「あーも、俺我慢できない」

そのままさくらは引きずられるようにして
コンビニに停めてあった、そのうちの誰かのであろう車に
抵抗も虚しく押し込まれそうになる。

「ヤダ、放して! 嫌だってば!」

エンジンがかかる音がして
さくらはさらに力を込めて嫌がる。

「じゃあ真綾、また連絡するよ」
「たっぷり遊んであげてよ。ついでに、写真も送って」
「了解!」

さくらがふと前方を見ると
満足そうな真綾の後ろに
小春と修が見えた。

「はるちゃん!」
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