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五十嵐さくらの憂鬱。
第17章 …17
その声が届いたのか
小春が振り返って、さくらと目が合った。

「何してんだよ!」

男がさくらの口を後ろから押さえ込み
他の男がジタバタもがく足を掴むと
そのまま車に押し込められた。

小春の驚いた顔と、
ドアが閉められるのが同時だった。
そのまますぐに車は発進する。

抑え込まれた口から息ができず
その手をどかそうとすると、
そのまま首を絞められた。

「お前、何声出してんだよ!」

さくらは苦しくて息ができない。

「おいおい、やめろって。
どうせ気づいてないよ」

その言葉に溜飲を下げて
首から手を離した。
ゲホンゲホンと咳き込み
やっと吸った空気のタバコ臭さに
さくらはさらにむせ込んだ。
その頬を強めに叩かれる。

「次大きな声出したら、もっと痛くするぞ」

それにさくらは
ガチガチと鳴る奥歯を噛みしめることしかできなかった。

「おい、どこのカラオケいくよ?」
「いつものとこ?」
「さっきの女にばれてたらまずいしさ、
逆に近場のが目立たないんじゃね?」

じゃあ駅前のとこでいっか。
その声とともに、車が揺れる。
さくらは痛む頬を抑える気力もなく
そのまま俯いた。
そっぽを向く男たちの視線を気にしながら
ポケットに手を伸ばす。

入れておいた携帯に手が触れると
安堵に泣きそうになった。
手探りだが、一か八か
電話のボタンを押す。
未だにすぐにかけられるようにしてある
樹の携帯へと着信した。
男たちが前方に乗り出していた身を引いたので
さくらはポケットから手を出して、
何もなかった風を装った。

ーーーお願い、出て。そして、助けてーーー

さくらは祈った。
目をぎゅっとつぶっていると
髪の毛を耳にかけられて、耳を舐められる。
あまりの気持ち悪さに身をよじると

「安心しなよ、いっぱいかわいがってあげるからさ」

と、さらに耳を舐めてくる。

「嫌がってる顔もめっちゃかわいい」

隣で別の男が写真を撮り
俺も、と反対側の耳を舐めてきた。

「あ、お前ら抜け駆けすんなよ!」

助手席の男が携帯のカメラを向けた時
車にブレーキがかかって
「お前ら、中入ってからにしろよ。着いたぞ」

到着を運転手が告げた。
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