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第10章 挨拶

正面に座る父をこそりと盗み見た。

少し老いた父は、あたしを見ることなくひたすら下を向き両手を無意識にこすり合わせていた。

留守電を聞いて、家にまで駆けつけたのだろうか？

あんな形で家をでた父が、連絡をとるどころか、家に直接来るとか…。

あたしには、父が何を考えているのかさっぱり分からなかった。


やがて、母がお盆に蓋付きの湯呑みを乗せて現れ、お茶を配り終えると隆盛に微笑んだ。

「お待たせしました、隆盛さん。」

隆盛も気の毒に…突然の父の乱入で混乱するよね…。

隆盛は、あたしに向き直ると緩やかに促した。

「新菜、紹介してくれるかい？」

隆盛は、冷静そのものだ。

混乱してるのは、あたしか ⁈

隆盛を紹介しなきゃ！

「 えと、お付き合いしてる
滝沢 隆盛さんです。
隆盛、母と…父です。」


自分が紹介する何てこと、頭に無かったあたしは、緊張しながら簡単に紹介した。お付き合いって、数日前ですがとは言わないでおこう。


「新菜の母の 藤代 美由紀です。隆盛さん、よろしくお願いします。」

母が先陣を切った手前、次に発言するのは父になるのだろう。

「あ〜…新菜の…父の、渡辺 和久です。
あ〜突然来て申し訳ない…。
あ〜、私の事は、気にしないで…。」


ふふっ

父さんの口癖「あ〜」って言うのは変わらないな。

こんな時なのに、何だか可笑しくて懐かしい。