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第10章 挨拶

「次は、新菜のご両親へ挨拶だね。緊張するな…。」


隆盛はあたしの手を握り締め、悪戯っぽく笑った。


「母は、家に居るけど、父は連絡先しか知らないの…。」

あたしは、酷く落ち着かない気分で父の事を話した。

「ねぇ、何故…父にまで挨拶するの？離婚したのよ？」

「駄目かい？…それとも、お父さんを憎く思ってるのかい？」

「わからないの…ただ、父の事を考えると心が騒ついて落ち着かない…。」

あたしは、隆盛の手を強く握り締めた。

「そうか…。新菜が嫌なら、無理に挨拶しないよ。ただ… 」

「…ただ、何？」

「きちんと新菜を貰いたいのかな？」

「…隆盛、…ありがとう。きちんとしてくれて。」


隆盛が、そこまで考えてくれていたとは思わなかった。


「俺さ、産婦人科で働くようになって色々考えさせられたんだ。

産まれたての赤ん坊って、泣くしかできないだろ？

それなのに、一年もすればいつの間にか歩いてて、話し出すんだけど…

親が育ててくれないと一人じゃ生きていけない、か弱い生き物なんだよな。

それなのに、子供は自分一人で育ちましたって大きな顔してたりする。

大切に育てられた事なんて忘れてるんだ。

俺もそうだったよ。

親が、子供を育てるのは当たり前だなんて考えてて、その苦労や、親である前に一個人の人間だって事を考えもしなかった。

新菜の今が在るのは、ご両親が大切に育ててくれたからだと思うんだ。

その大切な娘さんを、頂くのだから…挨拶くらいきちんとしたい。

俺の自己満足かもだけどな。」