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僕のおもちゃに僕がおもちゃにされるまで
第1章 キレイなあの子
 カツカツとミュールの音を響かせ、女がどんどん近付いてくる。金北の心臓は、歓喜と緊張に暴れ狂っていた。彼の隠れるコンクリート製の塀は、上手に巨体を隠してくれる。この塀は、金北の住むボロアパートのささやかな城壁であった。

 古い上に汚いこのアパートは、破格の家賃にも関わらず住人は金北以外に居ない。大家ですら滅多に立ち入らないほど、禍々しい出で立ちをしていた。昼間でも薄暗い建物は、夜はまるで幽霊でも出そうな雰囲気だ。実際は、幽霊よりもタチの悪い(しかし勃ちはすこぶる良い)醜い男が一人住んでいるだけなのだが。

 彼女はこの世に生まれて以来、こんなにも醜悪な場所に立ち入ったことがないだろう。そう思うと、ますます興奮した。汚いアパートの汚い部屋の汚い住人に、あの綺麗な若い娘が汚されるのだ。背徳感に喉が鳴る。

 ――いよいよ、女がアパートの前を通り過ぎる。


 金北は素早く彼女の前に立ちはだかると、何が起こっているのか理解できずきょとんとしている女の口をべたついた手で塞ぎ、細い身体を抱きすくめた。硬直する女の耳元で「騒いだら殺すぞ」とお決まりの台詞を吐くと、暴れることもできないその身体を引き摺り、己の部屋へと連れ込む。

「え? な、なに――」

 未だに疑問符を吐く女の身体を散らかった四畳半に放り、部屋の鍵を閉めた。
 ……この瞬間、狭い空間は、金北と女の二人きりのものとなったのだ。

 金北は軽く深呼吸した後、部屋の真ん中で腰を抜かしている女をまじまじと見た。

 ゴミの散乱する部屋の中に居てもなお、女は美しい。現状を理解はできていないが危機的状況にあることは解っているらしく、涙ぐんだひとみは嗜虐心をそそる。

 白いブラウスに淡いピンクのスカート、美しい脚には黒いストッキング。桜色のミュールは脱げかかっている。金北はミュールを女の足から奪うと、玄関へと放り投げた。

 肩より少し長い黒髪はやはり遠目で見ていたとき同様さらりと艶やかだ。白い肌は透けるようで、とても金北と同じ生き物とは思えない。歳は、二十歳前後だろうか。


 女のほっそりとした身体は、恐怖の為かガタガタと震えていた。


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