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私達が人間を辞めた日【外伝】 寿~孤独な支配者~
第3章 蝕み
ゴンゴン...恐れていた音...麻耶より遥かに乱暴なノックが部屋に響いた...
「優真くーん、ちょっと付き合いなさいよ」
ドアを開けてワインボトルを持った麗奈が不敵な笑みで言う。
年は20半ばの若い女だが、酒日足りの不摂生な生活からか荒れた肌と、派手な金髪を高い美容院でセットしているらしいが、俺にはミミズのようにしか見えない。多くのピアスや悪趣味なアクセサリーを身に付け、不快な程香水の匂いを蔓延させている。
自分は裕福だと見せびらかしたいような風貌だ。
「...すみません...受験勉強してるんで...」
ほんの僅かな希望を込めて断ってみるが、麗奈は益々不快な笑みを浮かべた。
「あれー?そんな事言って良いのかな?アレ...返してあげないよ...」
アレ...それは俺が10歳の頃....麗奈に取り上げられた一枚の写真...俺が母と写っている...たった一枚の写真だ。
母が他界した後...何かに取り憑かれたような和雄は、母の遺品や母の痕跡が残る物を全て処分してしまった。
そんな中で俺が必死に隠した一枚の写真....唯一の...母との形のある思い出...
「わかり...ました...」
参考書を閉じて立ち上がる...
もう五年も返して貰っていないものを諦め切れない....
...そんな弱い自分も...嫌いだ...