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私達が人間を辞めた日【外伝】 寿~孤独な支配者~
第6章 針
コンコン...控え目なノックの音...
ゆっくりとドアが開き、麻耶が心配そうな表情で除き込む。
「お坊ちゃん...御食事をお持ちしました」
「...いらない...」
「もう丸一日何も食べていないじゃありませんか...」
麻耶は珍しく無断で部屋に入ると俺の前で膝を着き、俺の手を優しく握った。
愛華の手と比べたら随分と冷たいのは、俺に人の温もりを感じる資格が無いからだろうか...
「辛いお気持ちは良くわかります。でも...これでお坊ちゃんが御体を壊してしまったら...御友人も浮かばれませんよ?」
本当に浮かばれない...愛華が最後に優しさを与えたのが...こんな人間のクズだなんて...
「俺は...思い詰めていた愛華に...何もできなかったんだ...」
麻耶にとっては意味不明な言動だろう。それでも麻耶は俺の隣に座り直し、俺を抱き寄せる。
麻耶が撫でる背中から嫌な思いを吐き出すように、俺の口は開いた。
「愛華が辛い思いをしてるってわかっていたのに...勇気があれば...弱くなければ...助ける事ができたかもしれなかったのに...」
こんな懺悔で愛華が救われるのか?
違う...俺が救いたいのは...俺の心だ...