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私達が人間を辞めた日【外伝】 寿~孤独な支配者~
第6章 針
そのまましばらく麻耶の腕の中で泣き続けた。
激しい嗚咽のせいで、麻耶に背中を撫でられていなければ呼吸すらできなかったのかもしれない。
ようやく自力で呼吸ができるようになってきた頃、麻耶の声が耳元で響いた。
「そんなに自分を責めないでください。お坊ちゃんのお気持ちはきっと伝わってます。御友人の方は自分を気にかけてくれるお坊ちゃんに心から感謝しているはずですよ?」
そんな事を愛華も言っていた...
「お坊ちゃんは本当に優しい人です。覚えていますか?私がこの家に来た初日に...緊張のあまり食器を割ってしまった事を。あの時お坊ちゃんは...私を庇って御自分が割ったのだと旦那様に報告してくださいましたよね?お坊ちゃんの優しさで救われた人はたくさんいるはずです」
違う...俺に救えるモノなんて何もない...
「私だってその一人なんです。だから...」
不意に麻耶の唇が俺の唇に触れ、俺は大きく目を見開いた。
俺にとって麻耶は母...いや、姉のような存在だったので、こんな行為等まるで想定していなかったのだ。
驚きで硬直した俺は麻耶に押し倒される...
「今度は私が恩返しする番です。嫌な事は全て忘れてしまいましょう...」