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私達が人間を辞めた日【外伝】 寿~孤独な支配者~
第7章 決別
「あのね?私今ちょーっとお金に困っててね。少しで良いから、優真君にお金借りたいなー」
数年振りに会った人間に悪びれる様子もなく、心にも無い仕草で両手を合わせる麗奈...
「貸すつもりは無いよ...帰って」
「そんな寂しい事言わないでよぉー。優真君和雄さんの遺産だって独り占めしちゃったんだからさ」
マンションに入ろうとしたが、麗奈は俺の腕にしがみつき支離滅裂な事を言う。
独り占めもなにも、麗奈は和雄の愛人というだけで遺産を得る権利等最初から存在しない。
俺は麗奈の腕を振り払い、マンションのロックを解除する。
これ以上その声を聞いて...その香水の匂いを嗅いでいるだけで吐き気がしそうだ...
そして...吐き気以外の危険な何かも...胸の内から込み上げて来るだろう...
「えっと...あっ...そうだっ!!優真君、あの写真返してあげるから!!」
俺の背中に投げつけられた麗奈の最後の言葉に、足が止まってしまう。
写真...もう10年以上前に麗奈に奪われた母との唯一の写真だ。
駄目だ...そんな物に心を揺るがされるから...俺はいつまでも前に進めないし...母さんや愛華を忘れられないんだ...
精一杯の拒絶は徐々に薄れていき...俺は無意識に振り返り...その交渉に応じてしまった。