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【SS】目が覚めたら…?
第27章 【ファン感謝】白雪姫 ②小人(ナツ)
 

 あれは僕が何歳の時だったか。

 あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。

 父が、隣国でひとりの少女を紹介した。


――ナツ、これが隣国のお姫様、シズル姫だ。


 おすましして微笑むシズル姫を初めて見た時、身体に稲妻が落ちたような衝撃を感じて動けなくなったのは、なにも兄だけではない。


 大きくつぶらな黒い瞳。もっちりとした頬。桜貝のような唇。

 黒髪が似合うその少女は、隣国の王の自慢のひとり娘だった。


 僕はこんなに可愛い女の子を見たことがなかった。

 全身がぼっと発火したように熱かった。


 そんな僕に、彼女は目映いばかりの笑顔向けた。

 どんな冷たい心をも氷解させる、人なつっこい陽だまりのような笑顔を。



――ナツって言うの? よろしくね? 私はシズルよ。

――しー、しー…。

――シズル。

――しー、しー…。

――発音が難しいのかしら。だったら、"しーちゃん"はどう?

――しー、しー……ちゃん。しーちゃん……。


 誰もが見向きもしない醜い僕を。

 言葉を話すことさえとろとろとしていて、いつも人を苛立たせてばかりの僕を。


 嫌な顔ひとつせずじっと僕の答えを待ってくれる彼女に、僕の熱を孕んだ心臓は、とにかくばくばくと、いつもの5倍以上もの早さで早鐘を打った。


 だが――。


――おい、シズ。


 彼女に一目惚れをしたのは僕だけではなかった。

 僕が大好きな兄もまた、しーちゃんに心奪われた。


 いつも不遜で人を見下したような目をしている兄が、しーちゃんを見る目は実に愛おしそうで。……燃えるように熱く、切ない。

 こんな表情で女の子を見つめる兄なんて今まで知らない。

 まず僕の自慢な兄にこんな情熱的な顔を見せられて、嬉しく思わない女の子がこの世に存在するとも思えなかった。


 それなのに――。


――いやぁぁぁぁぁぁ!! このしつこくて横暴な人、いやぁぁぁぁぁ!!


 しーちゃんはお転婆を通り越して、持てる限りの運動神経と防衛本能を働かせて、全力で兄から逃げていた。
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