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【SS】目が覚めたら…?
第28章 【ファン感謝】白雪姫 ③王子(モモ)
モモside 回想
胸元に赤い星形の痣。
艶やかな黒髪を束ねて、そのひとは弧を描いた赤い唇で、俺の頭を撫でる。
「可愛いモモ。ここでいつものようにイイ子にして、お母様を待っているのよ……?」
だから俺は待った。
暗くなり夜がきて、そして太陽が昇ってまた朝がきて、昼がきても。
この大木の前にこうして座って待っていれば、優しい母が帰ってくると。
だが、何日たっても帰って来なかった――。
雨が降り、風が吹き、晴天になっても……。
寂しくて寒くてひもじくて。
俺は泣きながら縮こまって、大木の前で倒れてしまったらしい。
それを助けてくれたのが、偶然馬車で通りかかって俺を見つけてくれた……大公、今の俺の父だった。
国王の従兄になるらしい身分の彼は、不慮の事故で怪我を負い、生殖器を失う事態になったらしく、そのためにいまだ独身であることを、後々噂話で聞いた。
今となってはもう思い出せないが、彼の屋敷で介抱された時の俺の受け答えを気に入り、俺を養子にしようと白羽の矢を立てたらしい。
養子になれば母もこの屋敷にて住んでもいい、粗末な服で働かずともいいことを聞いて、俺は嬉しくて早く母に報告しようと思った。すきま風がびゅうびゅう吹き荒ぶ、あんなあばら屋に住まわずとも、暖炉のある屋敷で温かい食事ができるということだけで俺は舞い上がっていた。
俺の母は俺を養うために、明け方までずっと働いていた。俺は俺で子供でもできる仕事をしながら、疲労困憊しているだろう母のために料理をしたり、家事全般をしていた。
俺がいなければ、母は困るんだ。
今頃母は俺を探して泣いているかもしれない。食事をせずに、俺みたいに倒れてしまっているかもしれない……。
早く母を迎えにいくだけの体力をつけるためにと、大公から与えられたのは生まれて初めて食べるご馳走。そして穴のあいていない上質な服。靴まで与えられ、大地を素足で歩かぬことを体験した。
その間、大公が部下を使ってあの大木を見張らせたようだが、母らしき姿がないと聞き、行き違いになってしまっているのだと思った俺は、母と住んでいた家に行った。
だが、その家は――
取り壊されて無くなっていたんだ。