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花に酔う
第4章 椿 *
「……身体より、心が欲しいんだけど」
彼女の背中に両腕を回し。
そんな悪足掻きの言葉を落としてみる。
一方で。
痩せたな……と思わざるを得ないほどの、その抱き締め心地。
彼女を襲っている苦しみと哀しみの深さをあらためて感じていた。
「……それ……彼がもう、持ってっちゃったから」
だからここにはないの、と。
ごめんね、と。
小さな声で紡がれる、いくつもの言葉。
もう、心はないと。
彼の元にしかないと。
僕がどんなにそれを欲しても無理だと――――それは、そんな意味で。
「……残念」
最初から分かっていた答えに、僕はゆっくりとそう返し。
彼女から身体を離した。
大好きなひとからそんな姿を見せられて。
そんな言葉を聞かせられて。
……それを拒めるほど僕の理性は強くなかった。
こんな状況で? と笑ってくれてもいい。
けれど身体だけでも僕にあげると。
自分がそうしたいのだ、と彼女がそう望んでくれてるのなら。
……それを跳ねつける理由なんて僕にはない。
シャツのボタンに手を掛けると、彼女は僕に背中を向け、障子を閉める。
「……寒いよね」
今更ながらそれに気づき、部屋の隅に置かれたヒーターのスイッチを入れに行く。