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花に酔う
第4章 椿 *
まるで時が止まったままのような。
そうでなければ同じ時を繰り返しているかのような……そんな毎日だったけれど。
その日突然、彼女は口にした。
……椿はもう見頃? と――――。
え? と振り向いた僕に。
もう一度同じ言葉を口にする。
その目はしっかりと僕を見ていた。
それまでの虚ろな瞳でじゃなく。
確かに意志のある目だった。
あの日からずっと。
哀しみと苦しみの感情ばかりを吐露していた彼女のその口から発せられた言葉に、僕は心臓の鼓動が速まるのを感じて。
「……実家の庭の椿のこと?」
そう、ゆっくりと聞き返す。
こくんと小さく頷いた彼女の瞳は僕を見つめたままで。
「そういえば……そんな季節だね」
少しずつでも、彼女が普通に生活できるようになればいいと――――そう思っていた僕は、沸き上がる期待に無意識のうちに口元に笑みを浮かべながら、そう答えていた。