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花に酔う
第4章 椿 *
「……見たいな」
そんなふうに過去に思いを馳せていた僕に告げられた、その言葉。
「久しぶりに、見たい……」
だから連れて行って、と。
ずっと、外に出ようとはしなかったのに。
誘っても、頑なに拒むほどだったのに。
――――もしかして本当に?
彼女の気持ちが望ましい方へ向いているのを感じた僕は、頷きながら口にしていた。
「行ってみる……?」
もし、途中で気分的に無理になったとしても。
それでも、きっとそれは彼女にとって大きな進歩だと思った。
哀しみの中に閉じ籠もるようにしていた彼女が見せた、外への興味。
それはきっと、いい兆候だから。
頷く彼女の身体を支え、立たせて。
外に出られる格好に着替えさせ、鞄……と呟いた彼女にそれを渡し、ふたりでアパートから出た。
ああ――――……と。
目を細めながら空を見上げた彼女。
そんな彼女の身体を支える手に自然に力が入った。
何だか……泣きそうになって。
慌てて僕も空を見て。
やがて歩き出した彼女に合わせ、僕も。
ゆっくり、車へと乗り込んだ彼女。
後部座席を。僕の後ろを選んで。
……出かけるにはいい、冬晴れの日だった。