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花に酔う
第4章 椿 *
やがて着いた、僕の家。
自分の家に寄らなくていいか聞いたら、彼女は黙って首を振ったから。
まっすぐに、ここに来た。
家には誰もいないはずだった。
この時間はみんな仕事だ。
鍵を開け。
彼女を促して、中に入る。
廊下を歩き、奥の和室へと向かった。
……あ。
咲いてる――――。
歩きながら庭に視線を遣ると。
その白い花が見えた。
「咲いてるよ」
振り返って彼女に言うと、ほんと? と呟いて僕の横に並んだ。
「……あ」
そしてそのまま僕を追い抜き。
引き戸越しに庭を見る。
僕が鍵を外して戸を開けると、縁側を通り庭へと降りた彼女。
椿の木に近づき、そこに静かに佇んで。
綺麗、と言葉を零す。
僕は廊下と和室を隔てていた障子を開けた。
畳の部屋に、差し込んでいく光。
振り向けば、彼女は落ちた椿を丁寧に拾い上げていた。
すっ、と――――。
その手が、耳元へと動く。
黒髪に、白い花。
そのまま振り向いて僕を見て。
「……何だか懐かしいね」
そう言って彼女は、少しだけ笑った。