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花に酔う
第4章  椿 * 


……彼がいない今。
彼女にはもう、僕しかいないはずだった。

彼を喪った哀しみ。
どんなに深いことだろう。
ふたりをずっと見てきた僕だから。
察するに余りある。

ずっと見てきた。
彼女の苦しみ。
引きずり込まれてしまいそうなほどのその絶望。
抜け出せるときなど来るのだろうか――――そう思ってしまうぐらいだった。


そんな彼女が。
こうして今、外に出て。
空を見上げて。
花を見て……綺麗だと言う。


きっとこれから。
もっとよくなる。

そう思えるような、彼女の心の回復の兆し。
僕は確かに感じていたんだ。


これから少しずつでも僕を受け入れてくれれば――――そう思った僕の目の前まで来た彼女は、静かに口を開いた。


「……よかった、咲いてて」


うん、と答えると。
少しの間を置いて……呟くように、彼女はこう言った。



「見たかったんだ……最後に」



と――――。





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